裁定取引投資家が持続可能でない理由 それは行動ファイナンスが残り続ける理由だ

小幡 績

行動ファイナンス理論は、裁定取引投資家はプロフェッショナルとして、それだけを業として発展することは不可能であることを示す。


LTCMの例で明らかなように、裁定取引のチャンスは限られており、それで儲けると言うことは、将来の儲けの機会を枯渇させるということだ。それが市場が効率的になると言うことだ。とりわけ、ノイズトレーダーを裁定取引によって、追い込んで駆逐してしまっては儲けの種がなくなる。ノイズトレーダーがいなくては、裁定取引の機会は生じないからだ。

したがって、市場が効率的であることと裁定取引投資家がプロとして存続し続けることは両立しない。ノイズトレーダーと裁定取引投資家とは、仲間であり、共存共栄なのだ。

裁定取引投資家が圧倒できない理由は、ノイズトレーダーとのこの関係にある。

つまり、ノイズトレーダーなしでは、存在し得ないにもかかわらず、彼らをある程度駆逐しなくては儲けられない。駆逐しすぎると、失業する。これが第一の関係。しかし、これだけではバランスが悪い。密漁により絶滅してしまう魚みたいだ。実際、裁定取引投資家の方が立場は弱いのである。なぜなら、ノイズトレーダーが存在しないと儲けの機会が無い。しかし、ノイズトレーダーがいること自体がリスクとなって、裁定取引を行うことが出来ない。これが行動ファイナンスでいうところのノイズトレーダーリスクだ。

つまり、ノイズトレーダーがいることにより裁定取引投資家は日常的に市場に存在し、しかし、ノイズトレーダーがいることにより、裁定取引をリスクなしに行うことは出来ない。だから、裁定取引には限界がある。ノイズトレーダーは、ノイズだから、どちらに動くか分からない。もともとファンダメンタルズを理解していないのだから、いつかファンダメンタルズに戻るように市場価格が動くと考えるのは間違いだ。ファンダメンタルズと関係なく取引しているのだから、ファンダメンタルズと関係ないまま価格は動くはずだ。

これをファンダメンタルズに戻すのは裁定取引投資家だが、彼らはリスクがある裁定取引はできない。そして、彼らが市場を常に見張っているためには、プロとして一定の収益チャンスが常にないと行けない。ということはノイズトレーダーはある程度残り続けないと、クリーンになりすぎると裁定取引投資家もいなくなり、次にノイズが生じたときに、それを消す人がいない。だから、市場に常にノイズは残り続けるのである。その中で、ノイズを消す裁定取引は、LTCMのようにリスクがある。ノイズが逆方向に膨らむリスクがあるからだ。

したがって、裁定取引は本質的に限界があり、どんなに金融市場が発達してもその限界は残り続けるのだ。