シュライファーと小幡君しか知らないという行動ファイナンスの奥義を教えてもらえるのかと思って楽しみにしていたのだけれども、もしそれが、この程度の話なら、行動ファイナンスにも失望だなぁ。
ここで、参考のために、池田信夫さんとの共著の『なぜ世界は不況に陥ったのか』日経BP社、2009年から、私の発言を引用しておきます(pp.205-6)。
投資銀行の流通市場での業務は、歪みを見つけてそれを裁定することによって利益を上げるというビジネスモデルと言っていい。そういうビジネスモデルにはジレンマがあります。歪みがビジネスチャンスなわけですが、歪みを利用して儲けることを続けると、歪みそのものが解消されてビジネスの種がなくなっていくわけです。
80年代の世界の金融資本市場には多くの歪みがあり、それをめざとく見つけてアービトラージ(裁定)することによって投資銀行は伸びることができた。それで規模が大きくなります。90年代に入ると、投資銀行のおかげで金融市場の歪みがなくなっていく。そうすると、ビジネスチャンスが少なくなってきます。しかし、投資銀行の規模はどんどん大きくなっていた。
そうした変化によって、既存の歪みを見つけて裁定するビジネスから、きつい言い方をすると、自ら歪みを作り出すビジネスを行うようになっていった。堕落したわけです。2000年以降は投資銀行ビジネスというと、顧客との間の情報の非対称性を解消するのではなく、自分で歪みを作り出してそれを利用して儲けるという、社会全体から見ると、本当に新しい価値を生むことにつながっているかどうか疑わしいようなビジネスに変質してしまった。
乱獲を続けると、ついには資源が枯渇して、自らが困ることになる。これは、確かに正しい.。しかし、だから乱獲に抑制がかかるというのは、明らかに論理が飛躍していますよね。「共有地の悲劇」のようなことは、常に起こり得るのであって、この場合にそれが生じないというなら、そのメカニズムを明示的に示す必要がありますね。また、ノイズトレーダー・リスクが存在するから、市場価格に関して平均(ファンダメンタルズ)回帰的な動きを期待できないというのも理解可能ですが、それだけだと伝統的ファイナンスの枠組みを揺るがすようなレベルの話ではあり得ない。
--
池尾 和人@kazikeo