大阪ダブル選挙で維新の会が圧勝して、はや二か月が経とうとしている。
世間的には大阪都構想の方に注目が集まっているようだが、個人的にはもう一つの改革の柱である公務員改革に期待するところ大である。霞が関OBがブレーンとして参加しているそうなので、特に心配はしていないものの、老婆心ながら、思うところを簡単にまとめておいた。というのも、上手く運べば、それは民間企業を含めた日本全体への重要なメッセージとなるからだ。
バブル崩壊以降、日本企業は人件費カットのために、様々な人事制度改革を行い、そしていまだ明確な手ごたえは得られていない。単純な新卒採用抑制による人件費カット、上から下まで一律での賞与給与カット、そして、目標管理制度を柱とした成果主義による総人件費抑制等。雇用調整は非正規雇用で行うとした「新時代の日本的経営」も、その一つと言える。この10年、日本のどこかの組織で働いていた経験のある人なら、一つくらいは身に覚えがあるはずだ。そして、こういった処置がすべて一時しのぎのものであり、本質的な改革にはつながっていないこともまた、理解しているはずである。
なぜこれらの“改革”は改革たりえなかったのか。それは、そこに新たな秩序が欠落していたからだ。人事制度に手を加える際に最も必要なものは、新たな秩序を確立できるかどうかである。
では、自治体の現状はどうか。自治体にもよるが、一般の企業と比べると、自治体職員は40代以上とそれ以下の世代で賃金格差が大きく、同じ職場内で正規職員と非正規雇用職員が混在するケースが多い。民間企業なら厳しい競争にさらされているために、士気を維持するために何がしかの秩序は維持する必要があり、(現行の雇用法制、労使慣習下で限界はあるといえど)生産性に見合った分配を維持しようとする。
具体的に言えば、90年代までに恵まれた賃金カーブまで昇給できた世代とそうでない世代の格差を、出来る限り是正しようとする。独占事業である自治体の場合、こうした自助努力が働きにくいために、同じ組織内で深刻な歪みが生じているわけだ。古い企業には年功序列という秩序が今でも強烈に残っているが、官の現場にはそれすらないカオス状態というところも少なくない。
もちろん、「若手をベテラン並みに昇給させ、非正規を正規雇用に登用しろ」などということは言わない。それは古い秩序を補強することでしかない。それでは生産性が上がらず、時代の変化に対応できないという点で、民間企業はとうに結論を出している。
では、今求められる新しい秩序とは何か。それは、勤続年数や学歴、経歴によらず、担当する職務内容によって給与水準を決める仕組みであり、職務給への転換である。
まず、組織内の全業務を洗いだして、いくつかのランクに分類する。そして、公約に基づいた人件費総額をベースに、地域の民間企業における同じ職種の平均賃金を参考にしつつ、それぞれのランクに値札をつける。そして、すべての職員をそこに再格付けする。貰い過ぎの職員の賃金は下がるだろうし、人によっては上がるだろう。一律賃下げ方式のように簡単ではないが、そこには秩序が生まれることになる。
もう一点、重要な点は、そこに非正規雇用職員も入れることだ。彼らを同じ給与体系に含め、できれば組合に加入させ、議論のテーブルに就かせるのが理想である。これで職員改革は、ただの賃下げではなく、名実ともに新しい秩序を作るという大義を持つことになり、組合も全面否定は難しくなるはずだ。
仕事柄、筆者は自治体の労組と仕事をする機会も多いが、世間一般の抵抗勢力というイメージは、実はあまり感じたことがない。むしろ、外部の情報に疎く、これから自分達がどう進むのか見えない不安から、とりあえず改革に難色を示しているケースが多いように思う。これは、改革しようとする首長、人事課といった側に、新秩序へのビジョンが欠落していることも大きい。やる方もやられる方も、どこに向かって進むのか分かっていない以上、なかなか改革が進まないのも仕方ない面がある。
実は、筆者は昔、大阪市職員組合と少しだけ仕事をした経験がある。その時の印象で言えば、むしろ構造的な問題に理解のある組合で、内部は一枚岩というわけではなく、色々な意見があった。彼らにビジョンを与えることなく、一律で敵に回せば、改革は必要以上に難航するだろう。一律のカットやクビ切りを行えば、最悪、国鉄のように裁判を経て長期化する可能性もある。
それを避け、4年間で一定の道筋をつけるには、彼ら自身も交えた上で新秩序を打ち立てるしかない。逆にそれが出来れば、大阪市は大阪都構想に先だって、日本に一つの範を示すことになるだろう。年功序列の属人給から職務ベースの職務給への転換は、日本中の組織の抱える共通の課題であるからだ。
城 繁幸
Joe’s Labo