木を見て森を見ない温暖化論 --- 石水智尚

アゴラ編集部

地球温暖化に対する懐疑論を読むと、懐疑論を反駁する典型的な手法は、図1のホッケースティック曲線部分で示されるような「現在の突出した温暖化には人為的CO2増大が不可欠である」事を論理的に示すという手法のようです。特に最近の温暖化シミュレーションは、たとえ短期間でも過去の気候をフォローする事ができるようなので、「だから最近の温暖化は人為起源である」という主張を突破する為には、現在の科学レベルが到達していない「知見」による証明が必要になり、懐疑論をギブアップせざるを得ない状況にあると思われます。逆にいえば、現在のような温暖化が過去に自然現象として生じている事を示せれば、懐疑論の大きな得点になる可能性もあります。

図1

まず現在は地球の気候について長期的な視野の中で考えます。地球は過去100万年のあいだ、約10万年周期で氷期と間氷期を繰り返している事を下記の図2は示しています。青いギザギザの線が下へ振れると氷期になって寒冷な気候を示し、上に振れると間氷期の温暖な気候を示します。

図2

図2の右端(現在)は青い線が上へ振れているので間氷期を示し、なおかつ温暖期のピーク付近である事がわかります。図1の時間軸は550万年と長いので、最近の40万年の気候変動を見る事ができる図3(左端が現在)を下記に示します。10万年周期で氷期と間氷期が繰り返すと述べましたが、それぞれの期間は半分ずつあるのではないようです。

オレンジ色の線を示した部分(私が元のグラフへ追加)は、氷期のおわりから間氷期の温度ピークへの急激な上昇を示します。図3によれば上昇の期間は1~3万年。青色の線で示した部分(私が元のグラフへ追加)は、間氷期の温度ピークから氷期の底への比較的緩やかな下降を示します。下降の期間は7~9万年。「氷期の底から間氷期の頂上までの期間」対「間氷期の頂上から氷期の底までの期間」の比率は、図3によれば、だいたい1対9から3対7くらいです。単純化すると、10万年のうち1~3万年が温暖な気候、7~9万年が寒冷な気候になります。

図3

更に図3によれば現在は(グラフの左端に注目!)、約1.5万年前に終了した氷期の後、高温期のピーク付近にある事がわかります。過去数十年の突出した温度上昇があろうと無かろうと、現在が長期気候変動という「森」の中で温暖期のピーク付近にあるという事実は明白です。

温暖化危機説のなかで論じられている、両極やその他の大陸の氷床の大幅な減少、大気の平均気温やCO2濃度が高い事、海面高度が高い事、それらが原因とされる気候変動などはいづれも、別に人為起源温暖化を持ちださなくても、自然現象による温暖化で十分に説明がつきます。

このような合理的な説明が存在する温暖化論の土台の上に、更に人為起源CO2増大の危機説を論じる為には、「自然現象」の土台部分と、人為起源CO2由来の「追加の環境変化」とを定量的に分離して論じる事ができなければ、各国政府が莫大な税金を投入する為の十分な根拠有る科学的仮説とは言い難いのではないかと考えます。

ところでこれまでの私の主張は、引用した古気候の分析グラフをベースにしていますが、辻元氏から前記事のコメント欄で反論を頂きました。図1を見れば、現在の数値が過去に比較して突出している事は明白なので、もし過去に同様な突出が自然現象として存在するのなら証拠を示すべきだという主張です。記事冒頭で述べたような、懐疑論への反駁の典型的な手法です。そして、この証拠を示す事ができれば、ある意味、人為起源温暖化論は現在の突出を「特別扱い」し難くなるのではないでしょうか。

そこで、グリーンランドの氷床分析から得た過去4000年の温度グラフを下記の図4に示します。グラフの時間解像度は約12.5年と思われます。グラフの真ん中の横線は、同じくグリーンランドの2000年から2010年までの10年間の気象観測による平均気温なので、4000年前から現在までの気温をほぼ同じ条件で比較検討できます。

図4の赤色の線で囲んだ部分(私が元のグラフへ追加)は3500年前から1000年前までの2500年の間に、現在の平均気温をはるかに超える温度上昇を何回も示している部分です。また黄色の線で囲んだ部分(私が元のグラフへ追加)は、10年平均値の温度が、1年平均値のホッケースティック曲線の突出に匹敵している箇所です。現在のような突出した温度上昇が少なくとも2回は自然現象として存在したという事を示しています。

図4

最後に、図4のネタ元である国立極地研究所のグリーランド氷床の表面温度を過去4000年にわたり正確に復元(http://www.nipr.ac.jp/info/notice/20111122.html)の結論部分の一部を以下に抜粋します。

「過去4千年間には、現在を上回る温暖期が繰り返し発生していることがわかった。これらの結果から、最近十年間の平均気温は、過去4千年でみれば自然起源で変動しうる範囲に収まっている。」

参考文獻
図1:Carbon Dioxide Variations
図2:Five Myr Climate Change
図3:南極ボストーク基地の氷床コアから得られた過去42万年の地球環境の記録(筆者が一部加工)
図4:グリーランド氷床の表面温度を過去4千年にわたり正確に復元 – 国立極地研究所(筆者が一部加工)

石水智尚 – Mutteraway