クラウド・サービスの著作権侵害リスク―免責判決が相次ぐ米国と厚い雲の中の日本(2)

城所 岩生

前回、番組録画や音楽関連クラウド・サービスの著作権侵害が争われ、対照的な結論が出た日米の判例を紹介した。米国の音楽クラウド判決については、アップル、アマゾン、グーグルのネット大手が注目していた。音楽クラウド・サービスをめぐって3社がしのぎを削っているからである。今回はその音楽クラウド・サービスについて敷衍する。


最初に前回簡単に紹介した日本のMYUTA(ミュータ)判決についてもう少し詳しく説明する。2005年、イメージシティ(東京都台東区)は、ユーザーのパソコンにある音楽を自社のサーバーに保存し、ユーザーが携帯電話にダウンロードしてきけるサービスを始めた。MYUTA(ミュータ)とよばれるこのサービスに対して、JASRACは著作権を侵害しているとの警告を発した。このため、イメージシティは著作権を侵害しないことを確認する訴訟を提起した。

JASRACは複製権侵害を主張したが、イメージシティは複製の主体はユーザなので、著作権法30条で認められた私的複製にあたると主張した。JASRACは公衆送信権侵害も主張したが、イメージシティは音源データファイルにはユーザしかアクセスできないので、公衆送信権侵害にはあたらないと主張した。

2007年、東京地裁は、1.イメージシティはユーザの音楽を複製し、送信するサーバを所有し、管理している 2.ユーザーは、操作の端緒となる関与はするが、複製行為やユーザの携帯電話への送信行為はイメージシティのサーバで行われる 3.したがって、イメージシティは複製および送信の主体として、楽曲の著作権者の持つ複製権および公衆送信権を侵害する との判断を下した。

ユーザしかアクセスできない1対1の通信でもネットを通じれば、公衆送信権侵害になるという判断である。この判断は昨年のまねきTV事件・ロクラクII事件の最高裁判決でも踏襲されている。クラウド・サービスは、プロバイダーのサーバにデータをアップロードして、いつでもどこでもネットを通じてデータにアクセスできるようにするサービスである。いったんネットを通すと公衆送信権侵害になるというのではサービスが成り立たなくなる。

以下に紹介するようにアメリカの音楽クラウド・サービスでは、ソーシャル・メディアを通じて、自分の音楽を友人と共有することも可能である。音楽は友人から新曲を知ることが多い点に着目して、クチコミ効果を狙っているのである。これに対して日本では自分の音楽を自分の情報端末で楽しむことさえままならない。著作権侵害リスクという厚い雲が垂れ込めていて視界が開けないままである。

米国との比較でもう一つ言えることは、以下に紹介する米ネット大手の音楽クラウド・サービスは2011年に勢揃いした。音楽クラウドの走りともいえるMYUTAはそれより6年前の2005年に誕生したが、裁判所の違法判断で実を結ばなかった。ウィニー事件無罪確定(その2)― 新技術をつぶす日本と育てる米国で指摘した新技術・新サービスに対する判例も含めた日米著作権法の相違がここにも見られるのである。

音楽クラウド・サービスは自分の音楽をクラウドにあずけて、いつでもどこでも種々の端末で楽しめるので、ミュージック・ロッカー・サービスとよばれている。三社のミュージック・ロッカー・サービスを比較すると下表のとおりとなる。

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音楽ネット配信で先行したAppleは、すでに数億曲を売り上げた強みを持つが、ミュージック・ロッカー・サービスでも他の2社にないサービスで差別化した。ユーザは自分の音楽をクラウドにあずけて聞けるようにするために、最初に音楽をアップロードする必要があるが、Appleはこの手間を省いてくれる。

Appleが無料のiTunes in the Cloudのオプショナル・サービスとして、有料(年間25ドル)で提供しているiTunes Matchである。まずユーザのパソコン内のiTunes ライブラリーをスキャンして、AppleがiTunes Store を通じて販売する権利を持つ2000万曲と照合する。ユーザの持つ楽曲が2000万曲の中に含まれていれば、ユーザのオンライン・ロッカーに入れてくれる。ユーザはアップロードする手間が省けるだけでなく、自分の曲の音質が悪くても高音質の曲が楽しめるという副産物までついてくる。

曲がいったんクラウドに入れば、ユーザのパソコン内のiTunes ライブラリーかiPod, iPhone, iPod Touch などの音楽アプリに表示され、ユーザはその曲をストリーム配信するかダウンロードできる。パソコン、iPod, iPhone, iPadなどで10端末まで楽曲を共有できる。さらに自分の持つ音楽をその入手方法にかかわらず関係なく25000曲まで保存できる。他社から購入した曲、CDからインポートした曲でも保存できるのである。

こうした便利なサービスを日本でも一刻も早く提供してもらいたいが、前回も指摘したとおり、音楽ネット配信のiTunes Music Store も日本への参入は米国に2年遅れた。今回はその時にはなかった著作権侵害リスクも加わるとその見通しは雲の中である。

城所岩生