整備新幹線は早期全線開通を目指せ

前田 陽次郎

タイトルは敢えて刺激的にしています。

地方に住んでいると、東京の人達と地方の人達の間で、議論がかみあっていないと思うことが多々ある。双方が同じ土俵の上で議論をしていないのだ。

もちろん多くのことは東京で決定されるので、どちらがいいか悪いかではなく、地方の人間も東京の人達のベースで議論に参加しなければならないことは、間違いない。

地方に住んでいて思うのは、東京の人達と同じ土俵の上で議論できる人間の層が、あまりにも薄いということである。

もちろん、地方の人間は議論に参加できる機会が少ない、という問題もあったが、アゴラでその機会を提供して頂いたので、私も土俵の片隅に上がらせて頂きたいな、と思う。


さて整備新幹線に関する議論。以前、池田信夫氏が成毛眞氏のブログをretweetされていた。

成毛眞ブログ

よくもこんなお粗末な内容を成毛氏は世界に晒せたな、と思ったが、こういう内容に反論する地方人がいなかったから、東京の人間は好き勝手に無茶苦茶なことを言いまくっていると思うので、多少の抑止力になれば、と、茶々入れ(反論とは言わない)させて頂く。私ごときがコメント付けても、ほとんど抑止力にはならないと思うが(苦笑)。

この記事での主張を大雑把にまとめると、以下のような感じになる。

・東京-札幌間に新幹線が開通すると、正規運賃は29050円ほどになると予想される。
・それに対し、スカイマークの格安航空券は、往復ホテル1泊付きで18900円である。
・よって、新幹線に乗るのは、新幹線にタダで乗れる国会議員だけであろう。

どうです?この無茶苦茶ぶり。ちょっと読んだだけで論理が破綻しているのが、誰にでもわかるだろう。

そもそも、正規運賃と格安運賃を比較して、何の意味があるのか。それでいえば、JALの正規料金は33670円なので、JALに乗るのは国会議員だけであろう、と成毛氏は予想するのだろうが(あいにく私は国会議員がJALにタダで乗れるのかどうか知らない)、成毛氏の予想に反して、JALに乗る客は多数存在する。

また似た論理でいえば、JALの正規運賃33670円に対し、新幹線の正規運賃は29050円になるので、今JALに乗っている人は、全員新幹線に乗ることになるだろう。だから、早く東京-札幌間に新幹線を開通させた方がいい、という結論も導き出せる。

成毛氏が大きな間違いをしているのは、価格が市場原理によって導き出せるということを知らないからだ。正規運賃は建前であり、実際には競合他社の値段を見て、競争力を持てる割引価格を提供するのだ。こういう所で、人間の思考回路がどうなっているかを垣間見ることができる。とっさの発言で、その人が本質的にどういう思考をしているのかがわかる。

多分、成毛氏は、価格はコストに適正利潤を上乗せして形成されるという、マルクス経済学的価格形成論に依って立つ人なのだろう。また、新幹線がいまだ国鉄によって運行されていると思っているのではないだろうか。多くの人はご存知の通り、新幹線は現在民間企業によって運営されている。今は、若い世代は「国鉄」とは何なんだか全く知らない、という時代になっている。

話を元に戻すと、実際に新幹線が開業している東京-博多間では、飛行機とJRが同じような価格に落ち着いている。

JR九州の旅行パンフレット

この例から示される議論の方向性としては、「東京-博多間の事例からしても、運賃は新幹線、飛行機とも同じ水準に落ち着く。そして、所要時間が同程度の東京-博多間の飛行機と新幹線のシェアから、東京-札幌間の新幹線利用客は○人程度と予想される。この場合の利益は○円程度になるから、JRは○円程度の黒字(もしくは赤字)になる。」というものであろう。

私は何故こういう馬鹿なブログ記事を池田信夫氏がretweetしたのか真意がわからないが、池田氏は普段から経済学的思考が一般に浸透していないことを憂いていらっしゃるので、その悪い例として、このブログ記事を晒したかったのかな、とでも思うことにする。

前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師