景気低迷、デフレ、円高、失業率増加、少子化、財政赤字増加の中長期トレンドに歯止めが掛からない。
この日本のジリ貧化の主犯は、財務省主計局と日銀政策委員会の二者である。
前者は増税を自己目的化し、過去に壊滅的な景気後退を招き、今回もそれを繰り返そうとしている。
後者はインフレ退治だけが自らの使命と勘違いし、デフレ=物価下落を放置している。
◆野田政権の増税条件◆
野田総理は、マニフェストに書いてある事をやり、書いてない事はやらないとした野党時代の姿勢を豹変させ、「社会保障と税の一体改革」と称し、税率10%への消費税増税(政府試算で13.5兆円の増税)に邁進している。総理は、消費増税の前提条件に、国会議員定数削減と国家公務員給与削減を含む行政改革による無駄削減および景気動向を挙げている。
国会議員定数削減については、民主党のマニフェストに書いてある通り粛々と進めればよいが、仮に与野党合意が成立し削減出来たとしても、財政改善効果は60億円に満たない。
行政改革については、新たに担当となった岡田副総理は、天下り法人統廃合の経費削減効果について目標額を示さず早くも腰砕けだ。語るに落ちたとはこの事で、衆院選マニフェストに謳った年間16.8兆円(4年度目以降)の経費削減・組み換えはとっくに放棄したようだが、その3分の1の実現も期待できまい。
国家公務員給与削減案は、7.8%・2年間削減の時限的なもので、マニフェストに謳った人件費の恒久的な2割削減から大きく後退した。
景気動向については、増税法案の附則に「景気動向や物価指数等を総合的に勘案し場合によっては、増税を遅らせる場合がある」というような執行停止条件の弾力条項を入れるようだが、数字の無い具体性を欠いたものに止める模様だ。このような曖昧なものである事は問題であるが、それ以上にそもそも増税するための単なる付帯条件になっている点がより問題である。
◆経済成長の具体的要件◆
経済成長があれば、日本のジリ貧化の大半は解決もしくは軽減できる。十分な経済成長があれば、失業率が減り、少子化にブレーキが掛かり、生活保護世帯が減り、加えて増税余地が生まれ、財政再建に資する。
逆に十分な経済成長の基盤が無いままに、無理に消費増税を行えば増税による景気下落効果により税収も落ち込んでしまう。あたかも、イソップ童話「ガチョウと金のタマゴ」のように欲を張ってガチョウを殺してしまう事になるだろう。
これは、97年の橋本龍太郎首相による消費税率の3%→5%アップの時に実証されている。
また諸説あるが、「消費税を10%へ引き上げれば、GDPは1.9%低下する」という民間シンクタンクの試算もある。(三菱総研の推計 日経BP 2006/9/15)
では、「十分な経済成長」とは、具体的にどう定義すべきか? 消費税増税の最低必要条件としては、上記の事を勘案すれば、議員定数削減と無駄削減に加え以下のことが必要だろう。
●実質成長率を2%以上にまで高め、インフレ率を2%程度とし、計4%以上のGDP名目成長率を3年以上継続する事。
●その上で、平行して社会保険の抜本改革を行い、それでもなお財政が不足する分についての増税を、衆院解散総選挙で是非を問うた上で行う事。
民主党政権(実質は経済産業省)が作った新成長戦略は、実行手段が書かれていないが成長分野のインデックスとしては適切なものである。半分放置プレーに晒されているが、これに特区を含めた規制緩和、地方分権、税制措置、補助金、あるいは民間と折半した国の直接投資により手足を付け死に物狂いで推進して行くべきだ。
また、日銀はデフレ放置を改め、2%程度のインフレ政策を取り、国債引き受け等で市場に円資金を供給するべきである。これにより、実質金利が下がり、ただ預金をしているだけでは実質価値が目減りする事になるので、消費意欲が刺激され、平たく言えば金が天下に回る事になる。このためには、進んでは日銀法改正が必要だが、先ず政府と日銀の協調を緊密化するべきだ。
野田総理はじめ政府、民主党執行部、野党である自民公明等、TV司会者・コメンテーター、大手新聞の論調から「経済成長」「景気回復」という言葉が、新年から殆ど消えるようになった。勝事務次官が率いる財務省の圧力があったのか、自主規制なのかは分からないが、何れにしても極めて不自然だ。
財務省の飼う九官鳥と化した野田政権は、景気と物価について恰も天候のような自然現象の如く捉えており、その主体性の欠如した姿勢からは、日本がジリ貧から抜け出して復活する可能性は無い。
国民は、順序を取り違えた本末転倒の消費増税の催眠術から目を覚まし、先ず経済成長とデフレ脱却実現への正当な要求を数字とスケジュール入りで政府と日銀へ突き付ける必要がある。
佐藤鴻全