日本経済に「神風」は吹かない

池田 信夫

アゴラは論争の場としてつくったのですが、投稿する人が「空気」を読んであまり違う意見が出てこない。佐藤鴻全さんの投稿は、いささかステレオタイプですが、みんなの党などの主張に近いので、コメントしておきます。


「無理に消費増税を行えば増税による景気下落効果により税収も落ち込んでしまう[・・・]これは、97年の橋本龍太郎首相による消費税率の3%→5%アップの時に実証されている」という話はよくあるが、間違いです。増税の直前には駆け込み需要で消費が増えるので、成長率は上がります。1997年の増税後の落ち込みは、そのリバウンドに過ぎない。これは一時的なもので、長期的には増収になります(1998年の落ち込みは信用不安によるもの)。


1996~8年の実質GDP成長率

「実質成長率を2%以上にまで高め、インフレ率を2%程度とし、計4%以上のGDP名目成長率を3年以上継続する」という目標を掲げるのはいいが、それをどうやって実現するのでしょうか。「特区を含めた規制緩和、地方分権、税制措置、補助金、あるいは民間と折半した国の直接投資」という程度のことなら誰でもいえますが、それで目標が達成できなかったらどうするのか。

「日銀はデフレ放置を改め、2%程度のインフレ政策を取り、国債引き受け等で市場に円資金を供給するべきである」というのも疑問です。「2%程度のインフレ政策」というのはインフレ目標のことでしょうが、目標を設定しただけでインフレになるなら苦労しない。国債を引き受けるのは買いオペと同じことなので、意味がない。

FOMCが2%のインフレ目標を設定したことが話題になっていますが、その指標としているアメリカのPCEコアは1.7%なので、これは達成可能な目標です。同じような(法的拘束力のない)インフレ目標は日銀も設定していますが、1%前後。CPIが-0.7%なので、目標を宣言するだけでは達成できない。FOMCのやった「時間軸政策」も日銀の発明ですが、大した効果がない。

成長率やインフレ率の目標を掲げることと、それを達成することは別です。成長率が簡単に上がるなら、誰でもやっている。日本経済に「神風」が吹くことを当てにして政策運営をするわけには行かないのです。財政を再建するには増税と社会保障の削減は避けられない。「景気がよくなってから増税する」などと言っていては、いつまでも増税できない。その負担は、将来世代に転嫁されるのです。