学生はなぜ「<リクナビ>を見ても企業の違いが分からない」と言うのか?

常見 陽平

都内のある大学で就活中の大学3年生向けに講演しました。学生からこんな質問がありました。

「リクナビで業界を絞って検索したのですけど、どの企業も同じに見えるんです・・・。」


■「どの企業も同じに見えます」という学生の悩み
彼は百貨店に興味があるのですが、各社とも今後の展開も、仕事の魅力も一緒に見えたとのこと。

私も検索してみました。再確認したのは、業界によっては選択肢が意外に少ないということです。リクナビ全体では2012年2月2日現在7,375社が掲載されているのですけど、業界を絞り混んで検索してみると、百貨店は全国で18社です。関東で絞り込むと10社になりました。もちろん、これは百貨店という業界の事情によるのですが。業界再編のため、だいぶ企業の数が少なくなっているわけですね。

採用広告を読み込んでみました。むむ…。事前知識がなければ、学生は分からないだろうなと感じました。私は、一応40年近く生きてきたので、専門ではないものの百貨店業界の基礎知識はありますし、相当利用してきたので各社の違いはなんとなく分かったのですが。明確に「ここは違う!」と感じたのは、コメ兵だけでした。この企業を学生が「百貨店」だと捉えているかは別問題ですが。

どの企業も「立地を強みにする」「PB商品に力を入れる」「ライフスタイルの提案」「お客様を大切に」「海外展開に力を入れる」など、同じようなことを言っています。これをPCや携帯の画面で眺めただけでは、事前知識が無い限りわからないでしょう。追加料金を支払って、特集ページなどを設置している企業はたしかによく見えるのですけれど。

■「日本企業には戦略がない」というポーターの言葉を思い出す
ある言葉を思い出しました。「日本企業には戦略がない」という言葉です。実に15年くらい前にゼミの指導教官に紹介された言葉です。元々は、競争戦略論の大家、ハーバード大学のマイケル・ポーターの言葉でした。
戦略とは何をやって、何をやらないかを決めることであり、独自のポジションをとることです。日本企業は、これが明確ではなく、全部横並びなのではないか、と。

採用活動もまさにそうです。大手企業を含め、採用戦略が明確である企業はなかなかありません。「戦う」という際には「戦略」「戦術」「戦闘」のそれぞれが大事で、一貫性があること、ちゃんとやり切ることが大事なのですが、多くの採用担当者は「戦術」のことしか考えていません。最後の「戦闘」をやり切る部分も弱いと感じています。他社とバッティングしてしまった際に早々と諦める採用担当者のなんと多いことか。もちろん、追いかけてもしょうがないと割り切るのも一つの作戦ではありますが。「ウチには戦略がある」と言っている人も、たいていは戦術レベルのことを語っています。結果として、「採用戦略」なる話はいつ内定を出すかということにすりかわってしまうのです。

採用広告はこんな横並び体質を反映していると言えるでしょう。

■頑張れ就職情報会社 違いをちゃんと原稿に落としこむ
もう一つの原因は、就職情報会社の営業担当者、制作担当者のスキルによる部分です。正直、採用担当者からはよい評判を聞きません。ちゃんと顧客の課題をヒアリングしつつ、魅力を抽出し、表現に落としこむ。この当たり前のことができていないと感じます。

私も採用担当者をしていた頃、大手就職情報会社の営業担当者があまりにイマイチだったので、担当者の上司にクレームを入れて担当を交代してもらったことがあります。一方、優秀な担当の方もいるもので、「担当の○○さんが異動しませんように…」とお祈りしたことさえあります。こういう人によるスキルの振れ幅が大きすぎるのもどうかと思うのですが。

採用担当者には、ベンダーコントロールのスキルが問われています。営業担当者の力を引き出し、活躍してもらうようにマネジメントする力が必要です。「昔はよかった・・・」という話はあまりしたくないのですが、以前は就職情報会社に営業武勇伝、制作武勇伝というものがありました。顧客と真剣に向き合い、新たな採用の仕組みにまで落とし込み、顧客の満足を勝ち得たという話がよくありました。

ただ、これは必然的な話でもあります。大手就職情報会社はこの10数年、営業の提案力強化よりも、プロダクトアウト型の営業に舵を切りました。ある意味、営業は効率化するというわけですね。その結果だとも言えます。採用担当者の悩みは「就職ナビだと応募はくる。欲しい人がこない」です。採用手法も変化する中、就職情報会社社員には高い課題解決力が期待されます。

もっとも、大手就職情報会社も変わろうとしています。この度、大手就職情報会社は体制変更や社名変更を行いました。リクルートはマネジメント体制の変更を発表。事業会社を分けました。リクナビなど正社員の求人広告の部門は、人材紹介などを扱っているリクルートエージェントと統合します。旧リクルートエージェントの役員が多いという体制になったとのこと。リクルートエージェントの方がいまや売上も存在感も大きいですからね。新会社の社長になる水谷智之氏(公人なので名前を出します)は、リクルート本体の次期社長と噂されたこともある人物です。求人広告部門の責任者も交代しました。新体制に対する期待は高まっています。マイナビも、昨年10月に社名変更を行いました。もう就職ナビの時代じゃないと言われる中、これを社名にした点には覚悟を感じます。

人材ビジネス業界を志望する学生とよく会います。ただ、彼らからよく聞かれるのは、「検索したら、結果にブラックと表示される企業が多いです。やっぱりブラックなのですか?」複雑な心境になりますが、リクルートのマネジメントスタイルを表面的に真似したやりがい搾取企業が多いのは事実でしょう。

就職情報会社には学生と企業の適切な出会いのために、そして業界の浄化に尽力してもらいたいです。

■大人たちの包帯のようなウソを見破るべき
学生にはさめた視点が必要です。リクナビは所詮、広告なのです。広告主にとって最も嬉しいものになるように作られています。横並びの広告主の意向を受けて広告は作られます。求人広告を見ていると、大手企業はどこも総合商社を意識したグローバル推しのものばかり。ベンチャーはプチリクルートか、プチサイバーエージェント風です。基本、良いことしか書いていませんし、悪い情報も意図的に伝えられます。

でも、世の中はそんなものです。包帯のようなウソを見破るのは、社会に出るための洗礼とも言えます。
学生は求人広告をプリントアウトし、赤ペンで真っ赤にしてもらいたいです。他の情報源にあたり、企業の違いを自分で見つけないといけないわけです。

就活生の言葉から考えた日本企業のこれから、人材ビジネスのこれからについて考えたエッセイでした。

就活の栞