ベッドタウンの殴り合い-銀座にまさかの広告-

高橋 正人

1.刺激的な広告
まずは以下の広告を見てほしい。

2010年11月に銀座、表参道、六本木など首都圏の主要駅に掲示された大型ポスターである(注)。

広告主である流山市は、千葉県北西部に位置するごく普通のベッドタウンだ。通常、地方自治体の広告と言えば、観光地のPRや企業誘致を狙ったものが大半であり、ベッドタウンが街の住みやすさを個人に対して宣伝するのは珍しい。

特に注目すべきは左上の文章である。小さくて見えないと思うので、以下で引用する。

自然のそばで子育てしたくて、都内から転居された加藤さん。

家族の時間を大切にしたくて、横浜市青葉区から転居された大野さん。

流山市以外の郊外のベッドタウンや都内からの移住を促す宣伝である。個人的にはこういった喧嘩腰の広告は好きだが、従来の地方自治体の広告と比べると、かなり刺激的だ。

なお、流山市は闇雲に広告を打っているわけではなく、街のブランディング戦略(「流山市シティーセールスプラン」(PDF))の一環としてPRを行っている。2005年のつくばエクスプレス(秋葉原(東京都千代田区)-つくば(茨城県つくば市))の開業に伴い、流山市内に4駅が新設されたため、定住人口の増加を促進するため各種施策に積極的に取り組んでいる。

上記のような街のPR・ブランディングの取り組みは、単にユニークな事例として片付けてしまって良いことなのだろうか。

2.東京隣接県への人口流入数の推移

これは首都圏(1都3県:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の純流入数(流入数-流出数)の長期推移である。バブルの崩壊前後でトレンドに明確な違いがある。

【バブル崩壊前】
住宅価格の高騰が続いていたため、東京都から人口が流出する傾向が見られる一方、相対的に住宅価格の低かった都内に隣接する3県は爆発的な人口流入となった。

【バブル崩壊後】
住宅価格が下がったことにより、東京都内の流出数が減少し、1997年には純増に転じた。特に2000年台に入ってからは、東京の沿岸部や都心での高層マンションの開発が進んだことなどもあり、東京都内への人口流入数の増加ペースが上がった。このような都心回帰の影響で、神奈川、千葉、埼玉の人口流入はピーク時と比較して低調なまま推移している。

3.ベッドタウンのブランディングの必要性
今後は、団塊の世代の定年退職などにより、ベッドタウンの地方税収(市町村民税など)が減少していくことが予想される。純流入数の低迷を放置しているわけにはいかず、各ベッドタウンは、働き盛りで所得の多い新規の住民を今後の税収源として獲得していかなければならない。

単身世帯や夫婦のみの世帯にとっては、職場に近い都心に住むのが自然な選択であろう。したがって、ベッドタウンにとっては、子どものいる世帯をどのように呼び込むかが重要だ(その意味で、流山市のPRの方向性は正しい)。

子どものいる世帯を流入させるためには、都心と比較したベッドタウンの魅力(家が広い、自然が多いなど)を明確化するのはもちろんのこと、他のベッドタウンとの差別化も図らなければならない。つまり、東京郊外の各ベッドタウンには明確なブランディング戦略が必要であり、流山市の取り組みが決して特殊なのではない。

ベッドタウン同士での住民の奪い合いが今後激化していくであろう。街の魅力を提示できないベッドタウンには衰退の道が待っている。

(注)
現在(2012年2月10日~2月19日まで)は、別の広告を掲示中である。キャッチフレーズは「学ぶ子にこたえる、流山市。」であり、英語教育に力を入れている点を強調している。

高橋 正人@mstakah