秋入学が歓迎されるわけ --- 城 繁幸

アゴラ編集部

東大の秋入学の提言が思いのほか好評で、既に複数の国公立大学が検討開始を表明している。読売新聞社の調査によれば、国立大82校中39校が検討開始、日経新聞社調査によれば私学を含む主要校の9割が前向きだとされる。政府も全面的に支持しており、古川経済財政担当相は国家公務員の秋採用にも言及。もちろん、多様な人材を採用したい経団連も賛成だ。


当初は、東大一校での提言がどこまで影響力を持つのか疑問視する声も強かったものの予想をはるかに超える滑り出しと言っていいだろう。

これだけ秋入学の受けが良いということは、裏を返せば、それだけ企業も大学も新卒一括採用に疑問を感じていたということだ。

実は、企業内では十年以上前からそういう意見が支配的だった。「指示待ち人間が多い」だの「創造性に欠ける」だのといった“よくある批判”は22歳の新卒ばかり執拗に採り続ければ、当然起きてしかるべき副作用だろう。

そういう状況をなかなか変革できなかったのは、硬直した人事制度がボトルネックとなっていたためだ。年齢もバックボーンも様々な人材を受け入れるには、柔軟な処遇制度が不可欠なのだ。

ところで、そもそも新卒一括採用とは何か。専門性も成績表もいらず、ただ地頭と若さだけあればよいという究極のポテンシャル採用のことで、「良い素材を採って、組織内でゼロからじっくり育て上げる」という終身雇用の副産物だ。

つまり、新卒一括採用に見切りをつけるということは、やはりその根っこの終身雇用自体にも(少なくとも企業は)見直したくてウズウズしているということになる。

ただ、ようやく入り口で動き始めた歯車が、このまま順調に組織全体を動かしてくれるかは予断を許さない。むしろ本丸はこれからだろう。半年から一年遅れで様々な成果を引っ提げてきた人材、そして海の向こうからやってきた様々な国の人材をどう処遇するか。大学はなんだかんだ言いつつもテイクオフしてくれるだろうが、ややもすると保守的な日本企業にそれが出来るのか。

企業がキャリアパスを多様化しない限り、この流れは一部の上位大学にとどまってしまい歯車は再び止まってしまいかねない。

とりあえず、大学は舵を切ることを選択した。企業の側にもそれに応える勇気があると信じたい。

※もっともそれが出来なければ非効率な企業が淘汰されるだけの話なので、どっちにしろ日本型雇用が終焉を迎えるのは間違いない。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2012年2月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。