ファッションとしての反原発

藤沢 数希

最近、100%電気自動車の日産リーフのCMがインターネットで話題になっていた。出演していた坂本龍一氏は、反原発運動を非常に積極的に行なっていた著名人のひとりで、放射能の危険性を様々なメディアでうったえていた。そして原発の再稼働に強硬に反対していた。その坂本龍一氏が、CO2が全く出ない電気自動車を賞賛していたのだ。最初に断っておくと、筆者は坂本氏に特段の感心があるわけでも、非難しようというわけでもない。ただ、このCMは、3・11以降の日本の空気を象徴しているように思えたのである。


通常のガソリン自動車は、ガソリンを燃焼させ、そのエネルギーで走行する。この時に大量のCO2が発生する。電気自動車は、バッテリーに貯められた電気エネルギーで、モーターを動かして走る。この時にはCO2が発生しない。しかし、その電気はどこで作られるかというと、発電所で作られる。そして、現在、日本全国の原発が再稼働できないので、ほとんどの電気エネルギーが火力発電所で作られている。火力発電所で、化石燃料が燃やされ、沸騰した水が蒸気タービンで発電機を回し、電気エネルギーを作り出す。この時に、化石燃料が持つエネルギーのざっと7割ほどが失われる。そして送電するのに、また電気エネルギーをロスし、最後にバッテリーが充電される。火力発電所ではもちろん大量のCO2が発生する。つまり、電気自動車は走行中にはCO2を発生させないが、電気を火力発電に依存している限りは、トータルで見たCO2の削減にはつながらないのだ。

要するに、電気自動車は原発とセットで、はじめて大きなCO2削減効果を期待できるのだ。原発は出力調整が難しいので、ベースロード電源として利用され、夜間は電気が余りがちである。この安い原発の夜間電力を使い人々が寝ている間に充電し、昼間に電気自動車を走らせる、というのがCO2フリー社会を目指す未来のモータリゼーションだったのである。

筆者は、自動車のガソリン・エンジンの効率と、最新の火力発電所の効率を比較すると、原発がなくても、電気自動車の方がそれでもCO2を削減できるとする研究結果ももちろん知っている。しかし、おそらく坂本氏や、坂本氏を起用した広告代理店はそういったことを意図していたわけではなかろう。要するに、反原発もCO2削減もファッションなのである。

もちろん、ファッションも音楽も、あらゆる自己表現はすばらしいことであると思う。筆者は、人々の嗜好に干渉するつもりは毛頭ないし、ファッションとしての反原発というのがあってもいいと思う。ちょうどファッションとしての菜食主義みたいに。しかし、そういったことで国の政策が歪められてはいけないのだ。なぜならば国の政策は国民の生活に直結しているからだ。

原発が再稼働しないことで、追加的に中東などから購入しなければいけない化石燃料だけで年間3兆円~4兆円ほどかかる。すでに産業用の電気代は大幅に値上げされることが決まっているが、今後は家庭用の電気代も上がるだろう。著名人が、実態のない放射能の恐怖を声高に叫ぶことにより、福島県の多くの人は不安を感じている。そしてチェルノブイリ原発事故の調査研究で明らかになったように、放射能よりもこういった精神的なことのほうがはるかに大きな健康被害を人々にもたらすのだ。反原発というのは、ずいぶんと高いファッションのようだ。

こういった日本の空気を少しでも変えられないかと思い、筆者は最近を書いた。さて日本のエネルギー政策はどこに行き着くのだろうか。