「能動」から「受動」へ、進化するメディア―@toriaezutorisan

村井 愛子

スマートデバイスの普及により、人々のメディア接触時間は増加している。それゆえ1つのメディアにおける可処分時間は少なくなりつつある。据え置き型のゲーム機で数時間じっくりとプレイするのが当たり前であったゲームも、電車の移動中に楽しめるソーシャルゲームへとシフトしている。


インターネットのメディアは、その構造からして能動的なものだった。テキストや画像をハイパーリンクというリンクで繋いでいるため、ユーザーは自分の興味のあるリンクをクリックするという能動的な行為の連続で情報を収集していく。しかし、コンテンツや情報の爆発的普及により必要とする情報を能動的に収集することが難しくなってきた。その状況を解決するひとつの解としては、信頼足りうる人物の視座を借りるキュレーターという仕組みがあるが、もう一つは受動的メディア(あるいはソリューション)の普及があると思う。

受動的メディアとは、ユーザーが能動的にハイパーリンクをクリックしてコンテンツや情報を収集せずとも最適化して届けてくれるサービスのことである。欧米では既にこれらのサービスが台頭していて、代表的なものには米音楽配信サービスのPandraや、ソーシャルブックマークサービスのStumbleUponなどがある。

Pandraは、個人の趣味に合わせて音楽を繋げて配信してくれるサービスだ。曲の特徴や傾向が400項目にわたり分析されており、ユーザーが好みの曲やアーティスト名を入力することによって同様の楽曲を再生する仕組みとなっている。

そして、StumbleUponはWebの膨大なサイトの中から趣向に合うと思われるものを表示してくれるサイトだ。次々と表示されるWebサイトを、goodかbadかで評価することによって趣味嗜好を勉強して最適化してくれる。

受動的メディアにとって欠かせないのは、データマイニングだ。初期はユーザーが登録した趣味嗜好のデータに基づいてコンテンツを配信する。その後、ユーザーがそのコンテンツに対してどのような反応を示したかというデータを蓄積して、より最適化していく。さらに、それがビックデータになればなるほど、ユーザー間の相似形が明確になり「AとBを好み、Cを嫌う場合はたいていDが好き」などの法則性が見出されて、相似形のグループごとへの配信が最適化されていくのだ。

こうした複雑ネットワークを用いたソリューションは日本にもあり、その技術を用いたデクワスというEC用レコメンドエンジンは国内外80サイトに導入されているという。

最近のスタートアップにおいては、この受動的なコンテンツが増えてきていると思う。小規模での立ち上げなので、データマイニングを本格的にやっているかはわからないが、先ほどのPandraのような音楽配信サービスでBeatroboというサービスがある。Facebookでログインするのだが、プロフィールの好きな音楽を参照して、Youtube上の好みと思われるクリップを再生し続けてくれるのだ。ソーシャル要素もあり、友人の好みの音楽を聞くこともできる。

今後はこういった受動的なコンテンツが台頭してくると思われるのだが、日本ではまだまだ数は少ないようである。今年もたくさんのスタートアップからこういったメディアやソリューションが発表されることを期待したい。

「ソーシャルブックマーク」
http://www.stumbleupon.com/
「ソーシャル音楽サイト」
http://www.beatrobo.com/
※Pandraは米国のみ展開

村井愛子 @toriaezutorisan