韓流ステルス押しの背景

石田 雅彦

数日前のことなんだが、ネット掲示板上でお定まりの騒動が起きた。ある女性ファッション雑誌の「韓流推し」がヒドい(ガハろぐNEWS)とネット住民たちが騒いだのだ。その雑誌のページをネット上で見たが、確かに「飲みすぎた翌日は、韓国のりが朝ごはん。あ~んまいっ♪」「親友、アズサと新大久保のマッコリバーへ」「お天気もいいし、朝鮮人参エキスも飲んで、元気いっぱいにデート♪」とモデルが頻繁につぶやいている。これを見たときの違和感はかなり大きかった。


次に、騒がれている雑誌を買って実際に読んでみる。付録がついていて紐掛けされ、立ち読みできなかったのだ。分厚い全285ページ中、問題になった日記風のコーディネート記事は実質6ページ程度。このページ以外に、まったく韓国の「韓」の字もない。

問題の編集ページはスイートと辛口というファッション嗜好の対比で構成され、スイートのほうの主人公は、韓国コスメの通販サイトも立ち上げたビューティサロン広報担当の27歳(6歳年下のイケメン韓国人留学生が彼氏)という架空の女性だ。最近、SNSのタイムライン的な構成で対比的に日々のコーデなどを紹介する誌面作りが女性雑誌で流行ってるらしいんだが、これもその一つだと思った。

ちょっと違和感のある設定なのは確かだが、何しろこのページ以外に韓流は存在せず、この雑誌が取り立てて騒ぐほど過度に「韓流推し」をしているわけではない。むしろ、インタビュー記事などは日本の男優やアイドルばかりで韓流スターは一人もいない。実際に雑誌を手にとってみると、ネット上で感じた違和感はかなり薄くなった。

この程度で騒ぐなら、同じ出版社の別雑誌2月号に竹島問題で批判されている女優が表紙を飾っているわけで、こっちのほうが製薬会社の広告がらみ、明らかな代理店経由の「韓流推し」と「ネトウヨ」が騒いでもおかしくない。ちなみに、この号では韓流男性アイドル(2PM)が6ページも特集されている。

だが、先月そんな騒ぎはなかった。これ以外の女性ファッション誌を眺めれば、韓流を取り上げている雑誌は驚くほど多い。ソウル旅行の特集記事を定期的に組む雑誌もある。だが、いちいちネットの住人はナショナリスティックに騒ぎ立てたりはしない。

なぜ冒頭の雑誌がヤリダマに上げられたのか。この差はいったいどこから来るのだろう。ネット上の「炎上騒ぎ」とりわけ「韓流推し」騒動はどんな背景で「発火」するのだろうか。

同じような騒動がネット上で日常茶飯事の如く起きている。去年の夏頃からネット上の住民たちが中心となって呼びかけ、フジテレビや花王へ反韓流のデモを仕掛けた。

だが最近、抗議の矛先が少し変わってきたのも事実だ。広告代理店から圧力があり、韓流女優を表紙に載せざるを得ない事情はわかる。自分の身の回りに韓流好きな層も確かにいるし、彼ら彼女らが好んで「韓流推し」媒体を読んだり見たり聴いたりするのを止めることはできない。というように、媒体がそれぞれ抱える事情について、理解するとまでは言わないが、ある種の同情ムードが醸成されてきたのかもしれない。

視聴率や部数に縛られている媒体を叩くより、マスメディアを操り資金を出しているクライアントや広告代理店へ抗議しよう、という動きに変わってきた。別にそうしたファナティックな行動を支持してはいないが、ネット上の批判は、媒体より広告主や代理店へシフトし、より強くなってきている。

では、なぜ冒頭の雑誌だけがヤリダマに上げられたのか。そのヒントは、冒頭で騒がれたページを読んで感じた違和感にありそうだ。

違和感の正体はなにか。それは、どうして主人公が「6歳年下のイケメン韓国人留学生を彼氏にもつ韓国コスメの通販サイトも立ち上げたビューティサロン広報担当の27歳」でなければならなかったのか、という点にある。

架空の主人公なのだから、編集サイドで自由に設定できるキャラである。編集担当や編集権を持つ編集長が、許容できるキャラ、であり、もっと言えば、好きなキャラ、ということになる。つまり、編集サイドに韓流シンパシーがある。なぜなら、問題になったページの主人公は、あんな無理に作ったようなキャラでなくてもかまわないからだ。あのページには、編集長や編集スタッフの「心から」韓流が好き、という動機がステルス的に見え隠れする。

もちろん、編集者が韓流好きでもそれはそれでかまわない。だが、実際に誌面になったとき、それが違和感を感じさせるのだ。

右寄りのネット住人たちの嗅覚に、その違和感がピンポイントで引っかかったに違いない。さりげなく韓国好きを紛れ込ませるやり方は「ネトウヨ」にとって、代理店のゴリ押しやあからさまな「韓流押し」より許容できないものだったのだろう。

もちろん、これはマスメディアの「中立性」といった大上段に振りかぶった話ではない。韓国コスメで稼いで韓国人のイケメン彼氏のいる美人モデルが「朝鮮人参エキスを飲んでデートする」ことに違和感を感じる人たちが、読者を含めてかなりいるのではないか、という作り手側の「想像力」の問題だ。

あることないこと針小棒大に騒ぎ立てるネット上の匿名投稿者を擁護する気はさらさらない。だが、これはマスメディアに限ったことではないが、この「想像力」を失えば、ときとして「炎上」騒ぎが起きる。そして、こうした「想像力」は、炎上を避ける基礎的なテクニックなのだ。