供給側発想の限界を感じる『もっとTV』

大西 宏

テレビCMがはじまり4月からスタートする『もっとTV』ですが、まだ全容が明らかになってはいないとはいえ、伝えられている断片からすると、危うさを感じさせます。スタートから完璧である必要性はかならずしも必要とは思いませんが、いくつかの疑問が浮き上がってきます。


まず第一の疑問は、『もっとTV』のコンセプトがなにかということです。『もっとTV』が、「TVを使う楽しさや便利さがもっと広がる」ということなら、現在の世界が向かおうとしているトレンドに合っています。しかし、もし「もっとTV番組を見たくなる、もっとTV番組を見るのが便利になる」ということなら限界を感じてしまいます。

ただ、すべてのサービスを含まないといけないということはないので、他のさまざまなサービス利用を前提として、あくまで日本のTV番組のビデオ・オン・デマンドのサービスとして『もっとTV』を位置づけるという戦略もありえます。その場合は、『もっとTV』対応機種のプラットフォームやハードの性能が気になります。TV番組は快適で便利に選択できたとしても、インターネットの動画などをサクサク見ることが必要条件になってきます。

第二の疑問は、PC、すでに家庭にかなり浸透したインターネット対応TVをなぜ捨てたのかです。先日ブログでNHKオンデマンドがまだ規模は小さいとはいえ、伸びてきていることを書きました。ユーザーのおよそ半数はPCからの視聴です。
自ら、市場に高い垣根を設けてしまいました。『もっとTV』対応のテレビを買った人しか利用できないサービスですが、はたしてビデオ・オン・デマンドで買い替えを促すほどの魅力をつくれるのかどうかです。
たしかにビデオ・オン・デマンドは、ライフスタイルが多様化した今日は必然的なサービスです。
テレビ離れが起こってきた理由は、放送時間帯が固定されているために起こる視聴者とのミスマッチ、インターネットの登場によって見る、あるいは楽しむ選択肢が増えたこと、番組内容の劣化の3点セットだと思いますが、すくなくとも、時間のミスマッチはビデオ・オン・デマンドのサービスの提供で解消されます。
しかし、残りの2つはビデオ・オン・デマンドのサービスだけでは解消できません。

第三の疑問は、実際に蓋を開けないとわかりませんが、今のところ、番組購入が前提となっているようです。もともとNHK以外は、広告収入を前提とした「無料視聴」です。視聴者にとってはTV番組はフリーのコンテンツという価値観が根付いてしまっています。それを課金に置き換えるとハードルの高さは、一挙に高くなってしまします。広告で収益を取るビジネス・モデルにするのかどうかです。本気でサービスを普及させようとすると、そちらになります。

こういったサービスは、利用者数の広がりが重要ですが、PCやすでに所有されているインターネット対応テレビを捨て、さらに課金制度を採用することは、自ら利用者数の拡大に足かせをはめてしまうことになります。

そういった点を考えると、かなり供給側の限界、また都合が優先され、利用者にとって望ましいあり方がかなり犠牲になってしまっているように感じてしまうのです。

滅びることが分かっているガラパゴスなサービスにしてしまうと、放送局も家電も将来を広げる、おそらく最後の好機を失ってしまいそうです。さて4月に蓋を開けたときに、たとえば、3年で1000万人の利用の可能性をも感じる、あるいはその志を感じさせるようなサプライズがあることを期待したいところです。