健康保険2月号・少子化特集に「なぜ日本型雇用は少子化を促進するのか」を寄稿した。重要な論点なので、概要だけ紹介しておこう。
少子化の原因については「現役世代向けの社会保障給付が少ないため」という理由がよく挙げられるが、どちらかというとそれは結果であって原因ではない。(たとえば教育費等は子供一人頭でみると他国並み)
少子化対策の目玉として出てくるのが“子供手当”という現実を見ても、意外に政治家も本当の理由は分かっていないようだ。少子化の最大の原因は、日本型雇用そのものにある。
社会が成熟し、大学進学率や女性の労働参加率が上がると、少子化が進むのはどの先進国も共通した現象である。高等教育までの教育費用にくわえ、出産や子育てにともなう機会費用が高くなるからだ。
というわけで、対策としては、学費の助成や保育施設の整備といった行政のサポートはもちろんのこと、女性の社会進出を後押しして、出産や育児による機会費用を抑制するしかない。子供を産むことが経済的にもキャリア的にもマイナスにならない社会を作るのが抜本的な少子化対策ということだ。※1
ところが、これが一向に進まない。日本は女性の社会進出において、いろいろな統計で先進国中最下位が定位置だ(たとえば「The Global Gender Gap Report 2011」では135カ国中98位)。
こうなってしまう理由は、勤続年数に応じて決まる積み上げ式の職能給にある。この方式だと、賃金>生産性となるターニングポイントがだいたい40歳前後に訪れるため、企業はそれ以下の期間のできるだけ多い人材を採用した方がトクである。となると、その期間に出産に伴い休職する確率の高い女性は出来るだけ採用しないか、しても出産を機に退職させるのが企業にとっては合理的となってしまう。※2
要するに、勤続年数に穴の空く女性を排除→出産の機会費用が高騰→少子化促進という流れだ。これを避けるには、積み上げ式ではない職務給をベースとした流動的な労働市場に移行するしかない。それなら、企業は女性を排除する理由は無くなるし、一度退職しても再就職のハードルも下がる。
企業へ育児休業と復職を徹底させるというアプローチもあるが、こちらはあまりおススメしない。というのも、90年代からそのための法整備がされてきて現実に起きたことは、上記のような女性の締めだしに過ぎなかったから。これ以上締めつけをきつくしたところで、それを守れるのは競争の無い公務員だけ、となるのがオチだろう。
ちなみに、出産の機会費用が高止まりしているという点は、内閣府も認めている。厚労省としては認めたくない不都合な事実だろうが、雇用制度自体にメスを入れない限り、出生率は上向かず、日本人は減少の一途をたどり続けるだろう。“終身雇用”を守って滅んだ唯一の民族とならないためにも、時代遅れの価値観はとっとと捨てないとね。
※1
たまに「女性が社会進出したから少子化になったのだ」という女っけの無さげな意見をいう人もいるが、そういうのは40年くらい前の保守派の意見で、女性の能力活用無くして経済成長はあり得ない。そもそも今さら戦前みたいな男尊女卑社会に戻れるわけないだろう。
※2
企業がポスドクや35歳以上求職者を採りたがらない理由も同じだ。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2012年2月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。