※笠井先生ご本人より本記事に関して数点指摘がございましたので、※書きして末尾に記します。
日経新聞などで、よく「大学と企業、あるいは公的機関が一緒に実証実験をする」という記事を目にします。しかし、数年経っても世の中に流通するサービスとして出てくるケースは少ないのではないかという気がします。
2000年代後半以降に、日本で成功したITサービスをならべてみると、
・DeNA→主軸はモバイルECサイトだったが、少数の技術者がモバゲータウンを作ってみたところ大ヒット
・GREE→田中良和氏の個人サイトとして始めたものの、DeNAの成功を受けてゲーム寄りになった結果大ブレイク
・クックパッド→佐野陽光氏が1人で始めて、当初はサーバー費用も逼迫していたが、2000年代後半になってレシピサイトとして大ブレイク
というような形で「個人がやってみたら、非常にサービスがいけてた」ので、ブラックスワン化したというモデルが多いような気がしています。もちろん、大ブレイク後はITサービスといえども規模の経済となり、優秀な人材の確保とかCTOの確保とかプラットフォームを握るための政治的な動きとか、色々なことがあるとは思いますが。
(日本だとどことなくアウトサイダーな個人のサービスが成功したモデルが目立ちますが、アメリカだと、MIT出身者とかテクノロジー寄りの技術者たちがサービスを軌道に乗せた後に有名な経営者やマーケターが参加してくるモデルが目立つので、この違いが興味深いところです。)
そんな中、数日前に発見して目からウロコが落ちたサービスがありました。「Gnzo」というiPhoneの動画共有アプリなのですが“ビデオ版Instagram”というキャッチコピーの通り、画面上に表示されたいくつものサムネイルが動くのです。
個人的には、スマートフォンの普及に伴って写真共有サービスがPC上(Flickr等)からスマートフォン(Instagram等)にメインストリームが移行しているように、今後動画共有サービスもPC上(YOUTUBEやニコニコ動画)からスマートフォンデバイスをターゲットにしたものへ移行していく気がしています。しかし、そこでネックになるのが動画というコンテンツならではの「再生してみるまで、どんな動画か分からない」というものです。この「Gnzo」というサービスはページを読み込んだ瞬間から個々のサムネイルが再生されるため、わざわざ再生ボタンをタップせずとも中身が容易に推測できるのです。(ただ、なかなか動画のアップロードが終わらない等他の動画共有サービスにも共通する問題はあり。)
これは動画再生におけるUIのイノベーションと呼んでもいいのではないかと思いますが※1、このコア技術は、電気通信大学の笠井教授の笠井研究室で生み出されたと言います。この記事によると、その技術は2009年の11月には既にこの世に登場していた模様です。
正直、大学の研究室から生み出されたテクノロジーから、面白いプロダクトが生まれるというイメージがなかったため、非常にこのiPhoneアプリにはびっくりさせられました。ちなみに、このアプリは大学内の学内ベンチャーによって運営されているようです。※2
政府は大企業の延命に多額のお金をつぎ込むのだったら、こういう可能性がありそうなベンチャーに小口の出資をしてはどうだろうかと思います。2009年時のインタビューで既に笠井教授は「iPhoneアプリであればすぐに実用化できる」と語っているため、小口の出資があればもっと早くアプリをリリース出来たのかもしれません。※3可能性があるこういったベンチャーに小口出資をすれば、かなりの確率でブラックスワンとなるサービスが登場するように思います。
村井愛子 @toriaezutorisan
※1 Gnzo および そのアプリは、大学により運営されていません。株式会社Gnzoが行っています
※2Gnzo 自体は、立ち上げ時(2年前)から出資を受けております。
※3Gnzo のコア技術である fabric video は、動画再生技術ではなく動画生成と伝送技術というサーバ側技術です.完全な情報理論、メディア信号処理技術であり、UIはあくまでクライアントから見える側面です。
筆者注:※3に関してはサーバーサイドの技術の支援によってイノベーティブなUIが誕生したという説明が正しいですね。