Apple、 Siriを日本語対応へ - @ogawakazuhiro

Appleが新iPadとともに、iOS5.1を発表しました。

iPadについてのコメントは今回は割愛し、iOS5.1によって実現したNUIの新しい局面について話をしたいと思います。NUIとは、ここでも何度か触れていますが、ナチュラルユーザーインターフェイスのことで、自然発話によるコンピューティングをはじめ、マウスやスタイラスなどの間接的な道具を使わず、五感すなわち視線や脳波、指先のちょっとした動きでデジタルガジェットを操作することができることを指しています。

今回のアップデートで、iPhone4Sの目玉機能である音声秘書機能「Siri」がついに日本語対応されました。詳しくはここをみてください。実に素晴らしい、未来のインターフェイスがそこにあります。


しかし。

僕は日立製作所で四年間ほどオンラインコラボレーションツールを開発していましたが、実はこのSiriに相当するサービスを11年前に実用化していました。名前はSiriではなくmomoといいます。

momoは音声でメールを読み上げてくれたり、Todoや予定の管理をしてくれました。スケジュールの登録を頼めば、ちゃんとオンラインカレンダーに反映してくれるのです。さらに、「疲れたなあ」と愚痴ると「おつかれさま」とか「がんばって!」など励ましてくれました。さらにこちらの言葉が聞き取れないと、「ごめんなさい、なんですか?」と聞き返してくれます。音声でメモを残すこともできたし、そのメモをメールに添付することさえできました。

これらの機能は12年を経てSiriにも実装されました。momoは12年前にSiriの機能のうち、おおよそ20%ほどはサポートしていたと思います。当時、日立で僕は、技術パートナーとしてアドバンスドメディアさんの音声認識エンジンと音声合成エンジンを採用させていただき、あとはおおよその質問と回答の文法作り(シナリオといってもいいでしょう)を通じて、当時では足りなかった技術を補いながら音声秘書を作り上げていったのです。つまり、日の丸版のSiriは、momoとして日本人の技術と工夫によって12年も前に実用化してみせていたのです。

しかも、このサービスは”クラウド”でした。ユーザーは僕たちが用意した特定の電話番号に電話すると、(予めサービスアカウントと電話番号を登録しておくことで)自動的に認証を行い、「こんにちはヒロさん」というようにmomoが返してくれるようになっていました。momoは日立製のオンラインカレンダーサービスと連動しており、携帯でもPCででもスケジュールを確認できたのです。

ここで言いたいのは、Siriは新しい技術ではなく、NUIを実現しようとする強い意志の賜物だということ。日本人も彼らに先駆けて実用化していたわけですが、残念ながら早すぎたことと、市場を作ることができず、このような先進的なサービスをマネタイズしていくための時間を得ることができなかった。それが敗因です。Appleは、結局のところ、枯れた技術をくみ上げて、先端のサービスに育てるのがうまい。やるぞと思ったらやりとげる意思があるのです。それが僕たちと彼らの明暗を分けている、そう言うほかありません。(残念です)

最後に、余談ですが、僕たちが夜通しmomoに必要な音源の録音で徹夜でスタジオに籠り、早朝に帰宅すると世界が一変していました。9.11のテロが起きていたのです。僕たちはサービスでもって世界を変えられず、暴力によって世界が変わる瞬間を味わうことになってしまいました。

小川浩( @ogawakazuhiro )