ロングテール理論とは、Eコマースにおいては、在庫リスクをあまり負わずに多くの商品を扱うことが可能になるので、多品種少量販売でも採算を取ることができるという考え方です。その結果、あまり売れないようなニッチな商品群からも大きな収益を上げることができるという考え方のことです。縦軸に販売数量、横軸に商品を置き、販売数量の多い順に並べたグラフを描いた場合に、販売数量の少ない商品を示す部分が長く伸びることになるので、それを長いしっぽ、すなわちロングテールと呼ぶのです。
Web2.0というバズワードが流行したときに、Eコマースが流通革命を起こしていく可能性を論じるための根拠として脚光を浴びました。ロングテールは、GoogleのアドセンスやAmazonのアフィリエイトなど、無数のWebサイトによる少ないページビューをかき集めて巨大な収益にまとめあげているビジネスモデルにも適用される考え方です。
しかし、スタートアップにとっては、むしろロングテールよりロングノーズのほうが、より重要で身近なコンセプトかも知れません。ロングノーズとは、鼻の長い象のようなもので、スタートアップが始めたサービスが、事業として収益を上げられるまでに長い潜伏期間が必要であることを覚悟しなければならない、ということです。
このロングノーズをできるだけ短くすることは、すなわち最初からお金を稼ぎやすい事業に取り組むか、あるいは早くたくさんのトラクションを獲得して知名度を上げて、少しでも早く且つ多く潜在顧客へリーチするしかありません。
TwitterやFacebookのように、無料サービスをトラフィックエンジンとして、それを換金するマネタイズエンジンとして広告モデルを考えるとき、何よりも優先しなければならないのはできるだけ多くのユーザーを獲得するということです。彼らのようなトラフィックエンジン優先のビジネスモデルの場合、相当に長いロングノーズになることを覚悟する必要があります。
ただ、ソーシャルゲームのような事業は、本来はロングノーズなのですが、ジンガはFacebookという巨大なプラットフォーム上に流れるトラフィックを、gumiはGREEという巨大なトラフィックを流用できるので、マネタイズを早く実現できました。彼らの急成長は、FacebookやGREEなどのプラットフォームあってのことです。
AppleのiOS用のアプリを開発するベンチャーも、iPhoneやiPadのAppStoreという巨大なマーケットプレイスが存在するからこそ、面白いゲームや有益なアプリの開発に専念できます。いまや、こうした巨大プラットフォームの上であれば、ロングノーズのリスクを軽減しつつ急成長を実現できる、リーンスタートアップのエコシステムができつつあります。その意味では、ソーシャルゲームやスマートフォン用アプリの開発以外のビジネスモデルを選択する起業家が少ないことは当然のことと思えます。
ただし、僕自身は、現在の法人向けのソーシャルマーケティングサービスを開発するというモデルからソーシャルゲームにピボットする気はありません。ゲームはよいビジネスですが、僕たちがピボットするにしても他の道があると考えています。
最近のベンチャー市場を見ると、スタートアップがとるべき事業戦略の最もシンプルなポイントは、自分たちの中核事業をどのプラットフォーム上に置くかを明確に意識することだと思います。
プラットフォームと言うのはとても便利、言い換えれば曖昧な呼び方です。例えばOSをプラットフォームと考えれば、その上で事業を考えることとは例えばWindows対応のアプリを開発することです。ブラウザーをプラットフォームと考えれば、Yahoo!のようなポータルやGoogleのような検索サービスのような事業を作っていくことになります。
2010年代に入って、最も成長性が高いプラットフォームは、iPhoneやiPad用のアプリケーションを販売できるマーケットプレイスとしても急成長しているiTunes Storeや、彼らを急追しているGoogle Playと言えます。また、ソーシャルモバイルゲームのプラットフォームとしてはGREEやmobageがあるし、Facebookもまたソーシャルゲームやビジネスサービスのプラットフォームとして急拡大しています。
スタートアップとしては(特に資金力に激しく劣る日本のスタートアップは)、自分自身がプラットフォームになろうとするような超ロングノーズ型事業計画を選択するのは恐ろしく危険です。成功すれば巨大なリターンが見込めますが、失敗する確率もまた極端に高いでしょう。
だから、既存の巨大プラットフォームの上に事業を載せることを考えるべきだし、どのプラットフォームの上で勝負するかを決めることが重要です。自分でカジノを開くのではなく、どのカジノで、どのゲームで一儲けするかを考えるべきということです。ポーカーなのか、ブラックジャックなのか、ルーレットなのか、起業家が考えるべきはそこでしょう。
– 小川浩(via Speed Feed)