問題多い「報道ステーション」― 古館さんは、そろそろお辞めになる時期では?

北村 隆司

私が良く見る、米国、、英国、ロシア、中国、アルジェジーラ(カタール)等の英語版報道番組では、課題ごとに専門家をコメンテーターやキャスターに起用するのが普通で、日本みたいに、元スポーツ選手とか、芸能人、タレント等が政策課題にコメントすることはありません。

専門家ではないコメンテーターに何を期待しているのかは判りませんが、日本のワイドショー的報道番組には、私の様な素人でも間違いだと判る事に良く出くわしますが、それが訂正された話は聞きません。

事実の検収や歴史観を無視した、単なる感情論や人気ベースの議論では、複雑化する世界情勢の正しい把握も難しくなり、国益にとっても決して良い傾向ではありません。

日本に帰る度に、話題の番組を出来るだけ見るようにしているのですが、テレ朝の「報道ステーション」と言う番組の古舘キャスター、古川サブキャスターコンビは、聞きかじった生半可な知識で、決め付けるパターンが多く、見ていても不愉快です。


然も、無知な人の典型通り、ご当人は自分の意見が正しいと信じ込んでいますから、論議も噛み合わず、始末の悪さは飛びぬけています。プロレスと高校野球のアナウンサーと言う番組とは程遠い分野の出身と言う事もあり、お二人の基礎知識不足は大目に見ても、「報道ステーション」と言う名前には無理があります。

そのような矢先、古舘キャスターの問題点を炙り出した記事にぶつかりました。それは、金属バラジウムを触媒として、炭素同士を効率よくつなげる合成法を編み出した功績でノーベル化学賞を受賞した鈴木章北海道大学名誉教授をインタビューした「報道ステーション」番組です。ベンゼン環図に関して繰り返し間違った説明をするので、鈴木先生が「あぁ~もう!」とイラつくシーンがあった後の、古舘キャスターと鈴木先生のやり取りをこんな風に再現していましたので、少し古いですがそのまま引用してみます。


古舘  VTRの図が間違ってました。左が間違いで右が正しい図です。先生これでよろしいですね?

鈴木  それも違います。さっき、正しい図を記者の方に渡しましたよ? それが届いたでしょ?

古舘  (新しい図を出す古舘アナ)これでいいですか?

鈴木  あぁ……それで合ってます

古舘  (書き直した図を指差して)これがパラジウムなんですね?

鈴木  ああ!?

古舘  これがパラジウムなんですよね?

鈴木  ああぁ……もう……! つまり最終的にはその図になるという事です……

古舘  あははっ! まあ……ここに到るまでが複雑だという事で……

鈴木  えーと……それ作れたらノーベル賞がもらえますよ


誰にも難解な科学の問題で、古舘さんが戸惑うのは当然で、それ自体は全く問題ありません。

問題は、苛立つ鈴木教授には謙虚に応対していた古舘キャスターですが、自分が得意だと誤解している政治や社会問題では、専門家から見れば「ベンゼン環図」と変わらない程度の知識レベルしかないのに、傲然と相手を批判する横柄な態度に急変し、原発事故に対応した菅前首相の様に、謙虚さと理性を失ってしまう事です。

若し、古舘キャスターが鈴木教授とのインタビューの後「鈴木教授は国民の目線で物を見ていない。当番組で慎重に調査して提出した正しいベンゼン環図を示したにも関わらず、認めようともしない。こんな人に、科学を任せて良いのでしょうか。今後もこの様な事を繰り返す様であれば、国民は許しません」とコメントしたらどんな反響を呼ぶか、考えても見て下さい。ところが、古舘さんは他の分野で毎日この種のコメントを出して、国民をミスリードして居るのです。

つい最近も、東日本震災の1周年特集を終えた後に、如何にも自己陶酔型キャスターらしく感極まった表情で「二つの後悔」を発表したり、原発事故特集のエンデイングでは、「圧力がかかっても、番組を切られても本望です」などと、言論圧迫があった事まで示唆しています。

自社のキャスターから言論圧迫と言う報道機関の命を奪う様な批判を受けながら、テレ朝経営陣が沈黙を守る事から判断すると「報道ステーション」その物が「やらせ番組」である事を告白したような物です。

「やらせ」が解ったこの際、古舘さんも自ら降板するのが本望のように思います。自己陶酔型キャスターの終焉としては、大変格好が良いと思うのですが、如何でしょう?

古舘さんは、プロレス実況のプロだけあって、歯切れも、声もルックスも良く、司会者としても一流の腕前と言う評判ですから、得意分野で再登場される事を期待しています。

報道番組は、専門家中心のコメンテーターやキャスターが、より高度な判断材料や異なる視点を国民に提供する場であって、結論を出す場ではありません。社会科学の分野では、専門家より常識のある一般国民の判断の方が正しい場合が多く、民主社会で最終判断を国民に任せる理由はそこにあります。

古館さん個人を槍玉に挙げたと誤解されると困りますが、番組であれだけ多くの人を侮辱して来られた事ですから、この程度の批判は気にされないでしょう。

兎に角、日本は芸能人やスポーツ選手のコメントをありがたがる風習を廃し、もっとレベルの高い情報と、例え異なる見解でも、参考になるコメントを聴ける報道番組を増やして欲しいものです。

北村 隆司