契約労働者を短期アルバイトにする労働契約法改正案

池田 信夫

政府はきょう、労働契約法改正案を閣議決定した。そのポイントは「有期契約労働者が同じ職場で5年を超えて働いた場合、本人が希望したら無期雇用(正社員)に転換しなければならない」とする規定だ。これがどういう結果をもたらすかは、中学生でもわかるだろう。企業は契約労働者を4年11ヶ月で雇い止めするだけだ。


現在は有期雇用契約は3年までで何回でも更新できるが、今回の改正が行なわれると5年を超える雇用契約ができなくなるので、企業は委託契約や短期アルバイトに変えるだろう。これは私がJBpressで1年半前に警告し、派遣労働で実際に起こったことだ。

次の図はGarbagenewsが労働力調査の統計を図示したものだが、2008年以降の不況で真っ先に切られたのは派遣で32万人も減り、派遣労働者の失業率は20%を超えた。このころに短期派遣の規制が行なわれ、マスコミの「派遣たたき」が増えたことが原因と思われる。この分、パート・アルバイトが翌年40万人も増えている。


今度は契約社員で同じことが起こるだろう。コールセンターなどは、中国に外注するケースも増えている。そこで働く日本人の年収は、年収5万元(65万円)が相場だ。製造業は日本を出て行き、契約社員は職を失い、日本経済はさらに悪化する。得する人は誰もいない。

それでも厚労省が雇用規制に執着するのは、なぜだろうか。一つの答は、彼らの知能が中学生以下だということだ。これも捨てきれないが、もう一つの可能性は旧労働省以来の家父長主義が抜けていないということだ。大資本には無限に金があるので、国家が彼らの金を貧しい労働者に分配するという「社会政策」的な発想は、労働法学者にも根強い。

高度成長で企業収益が上がっていた時代には、企業に雇用を保障させて年金・退職金で労働者を保護させる「日本型福祉社会」は、「高福祉・低負担」を実現するように見えたが、低成長になるとそんなシステムは成り立たない。企業年金は積立不足で破綻し、長期雇用をいやがる企業は非正社員を増やした。収益の低下した企業に、社会保障のコストを負担させるのはもう無理なのだ。

必要なのは雇用の安定ではなく、生活の安定である。好むと好まざるとにかかわらず、日本は企業のような中間集団で個人を守るシステムから個人が自分で身を守る(それを政府が助ける)システムに変えてゆくしかない。それを理解しているか否かが、これからの政治の一つの争点だろう。自民党は、労働者派遣法と同じようにこの愚かな労働契約法改正案をつぶすべきだ。