ビルマの原子力保有がもたらす影響について --- 坂田 航

アゴラ編集部

近年のビルマ情勢で、特に衝撃だったのは、軍政が「民主化」を行ったことよりも、核開発の実態がアメリカのシンクタンクによって衛星写真の証拠を元に暴露されたことでした。北朝鮮が関与しているとの説も浮上しています。

お決まりの「北朝鮮→イラン&パキスタン」の構図があることを前提に考えれば、決して北朝鮮の関与は不自然ではありません。ビルマに核関連施設がある事自体が大きな意味を持つのです。


話を昨年の日本に戻します。震災後、日本政府は「原発のこれ以上の建設は困難になる」と明言しました。ここで一点指摘することのできる落とし穴は、あくまでこれは政府の見解に過ぎないということです。すなわち、企業の原発建設については、話は別ということです。

日本は自由主義経済で、ベネズエラ型社会主義ではありませんから、政府が買収の脅迫によって企業活動に制限をかけたり、制限を課すことはありません。ですから、企業は政府がどのような方針を示そうとも法に触れない限りは何でも出来るのです。これは確かに世界の多くの国で採用されている体制で、ごくあたり前のように感じます。

しかしながら、ベトナム戦争の際にはモンサント社を始めとする企業の製造による枯葉剤が今でも人々を苦しめているにもかかわらず、アメリカ政府がスケープゴートにされたことで、現在もなお遺伝子組換えの分野でモンサント社がシェアを占め名誉を回復しているように(批判は多くありますが)、企業の活動はある程度許容されやすいのです。

現に、震災後には「インフラ輸出」を名目に、東芝がベトナムと原発建設についての協定を交わしています。世論形成を担うメディアから指摘がなされていない以上は、この流れはしばらく続くことが考えられます。スポンサーである東芝との関係に加えて、記者クラブのもたらす横並び報道の弊害も絡んでいるとは思いますが、今のところ原発についての議論は国内に留まっているのが現状です。今後はベトナムだけでなく、そこから徐々に原発の輸出が続くと考えることは可能なのです。

ここで何が問題かというと、今後「門戸開放」によってビルマ軍政が多くの外資系企業・海外援助を受け入れていく中で、日本の東芝・三菱もしくはアメリカのGE、フランスのAREVA等によって技術援助の名目で原発を建設する日が来る可能性があるということです。

ここで関わってくるのが、先に述べた北朝鮮の援助による核関連施設の存在です。海外資本の作った原発の存在を盾にして、核の平和利用のための「自主開発」だとして軍政が核関連施設の存在を正当化する可能性があるということです。もちろん、これに対して欧米は首を縦に振る事はないと思われますが、確たる証拠を挙げられなければ理論は通じます。

核関連施設だということも軍人の証言でしかありませんから、CIAの工作員が証拠を挙げられなければ各国政府が対応に出る可能性は低いでしょう。少なくとも今回のリビア内戦のように欧米諸国が及び腰になることは眼に見えています。さらに、最大の味方である中国には強い態度で臨めない欧米は、ビルマへの圧力を十分にできなくなる可能性も生まれてきます。

それに加えて、今後「民主化プロセス」が順調に進めば、中国の原発開発ブームも手伝って、原発建設の機運が高まるでしょう。海外資本を受け入れれば、当然工場も多く建てられるでしょうから、莫大な電力が必要になります。人々が経済力をつけ発言力を高めれば、現在のような日常的な停電は防がなければならなくなるでしょう。

話を元に戻します。いくら原発廃止が世界世論になりつつあるとはいっても、それは先進国に限られていています。震災後も多くの発展途上国が原発の建設を中止しない姿勢を表明しており、海外報道を見るかぎりでは、途上国の間では原発廃止というテーマは議題の中心にはないようです。

さらに、中国はアフリカに企業をどんどん進出させ、同時にも原発も輸出しています。このように、途上国での原発建設は急ピッチで進んでおり、当然ビルマもそこに含まれてくることは明らかだと思います。

アウンサン将軍暗殺以後、人権侵害はとどまること無く続いていますが、仮に軍政が民主化を成し遂げたとしても、原発が作られ放射能の脅威に人々がさらされることになれば、政府ではなく企業による人権侵害が起こることになります。人権侵害の民営化です。

不幸の連鎖を防ぐためにも、各国政府を始めとし、NGOはビルマ一国のみに注目せず、グローバルな視点で問題解決に取り組んでいく必要性に迫られています。

坂田 航
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