政府・与党は5%の消費増税を含む税制改革法案を国会に提出し、間もなく、特別委での審議がスタートする。だが、デフレ脱却が進まない現状で増税に否定的な意見も多く、政府・与党は野党との政治的駆け引きのみでなく、政権内の融和を含め、難しい舵取りが要求されている。
このような状況において、野田総理は「政治生命」をかけ、税制改革法案を成立させようとしているが、もし同法案が不成立となった場合、今後10年間で日本財政はどうなるのか、考えてみよう。
以前のコラム「「日本財政」の異常事態はいつまで続くのか?)でも指摘したように、ここ数年、「財政赤字」(新たな借金)が「税収」を上回る異常事態が続いている。この主な要因は、税収低迷と歳出増にある。前者(税収低迷)は、景気低迷のみでなく、バブル崩壊後、景気対策として実施された累次の減税も大きな要因と考えられている。
他方、後者(歳出増)は、高齢化の進展に伴う社会保障費の膨張が大きな要因である(注:一時的な膨張要因であるリーマンショックや東日本大震災への対応を除く)。ここ数年、社会保障費は毎年1兆円以上のスピードで膨張しており、最近は自然増で1.3兆円の伸びであるから、仮にこの伸びが継続する場合、社会保障費は今後10年間で13兆円も増加する。
だが、「今後10年間」という時間軸で考える場合、歳出増の圧力は、社会保障費のみでない。以前のコラム「膨らむ政府債務、金利低下ボーナスの終焉か」や「「想定外」か「想定の甘さ」か:10年間で利払い費は倍増する」でも指摘したように、現在のような低金利1%が継続しても、国債の利払い費はこれから増加ペースを強め、約10年間で利払い費は約8兆円も増加する(日本総研試算)。
これまで公的債務残高が増加しても利払い費がそれほど増加してこなかった理由は、過去の高金利での国債発行を低金利で借り換える「金利低下ボーナス」が存在したためである。だが、もはや金利はこれ以上低下しない状況になっている。その結果、金利低下ボーナスは終了しており、これから利払い費は確実に増加していく。
以上から、税収の低迷が続く中、税制改革法案が不成立となった場合、これから社会保障費や国債の利払い費が急増することから、現在のような低金利1%が継続しても、現在約44兆円の財政赤字は今後10年間で65兆円(=44+13+8)に拡大する可能性がある。
なお、平成24年度予算では、基礎年金の国庫負担50%を維持するための財源不足(約3兆円)が問題になった。現在のところ、政府・与党は将来の消費増税収入を担保とする「年金債」(当初は「年金交付国債」)を発行し、年金積立金を取り崩すことで年金財源を賄う方針を示している。もし税制改革法案が不成立なり、この財源が調達できない場合、この3兆円も加え、今後10年間で、財政赤字は68兆円以上に膨張する可能性もある。
以上のとおり、今後10年間での財政状況はとても厳しい。拙著『「2020年、日本が破綻する日』(日経プレミアシリーズ)が提言するような、さらなる財政・社会保障改革が不可欠であることはいうまでもないが、このような状況を回避するためにも、税制改革法案の成立が望まれる。
(一橋大学経済研究所准教授 小黒一正)