スマートフォン向けアプリを開発している会社にとって、iPhoneのAPPストアランキング上位を獲得するのは収益を上げるための必須条件です。IT界隈の方々の話を聞いていると、必然的にランキング上位に食い込むにはどうしたら良いかというテーマになります。どのくらい広告を投下すれば、ランキング上位を維持できるのか、その間に収益がどのくらい上がるかをシミュレーションするわけです。その方法論を説明するセミナーは人気だと聞きます。
こういう収益の目指し方は、従来のマーケティングフレームにはまっていると思うのですが、個人的にはもう一方の集客方法用いたサービスモデルを目指したいです。そのサービスモデルとは、CGM(Consumer Generated Media)サイトです。Web2.0が大流行した時にたくさん聞かれたキーワードですが、この分野で成功しているwebサービスをあげると以下のようになります。
・「ニコニコ動画」・・・ユーザー参加型動画投稿サイト
・「クックパッド」・・・ユーザー参加型レシピ投稿サイト
・「アットコスメ」・・・ユーザー参加型コスメの口コミサイト
・「DECOLOG」・・・10代に圧倒的人気を得るブログサイト
これらのサービスの特徴をくくると、CGMサイトということになるのですが、ここでの定義としては「ユーザーの共感が得られる仕組みや場を提供し続けているサービス」ということになります。これらのサービスの特徴的な点として、以下が挙げられます。
1.サービスに火がつくまでに長期間かかることがあり
2.初期の段階においてマネタイズがしづらい
3.しかし、一度マネタイズに成功すると高利益率になる
例えば「ニコニコ動画」は2006年の年末にβ版がスタートしていますが、そこから2010年5月に黒字化が発表されるまで、実に3年5か月の歳月を要しています。しかし、今やプレミア会員は150万人を超え、一般の登録者数も2,000万人を超えています。大人には聞きなれない「DECOLOG」というサービスは、10代後半をターゲットにしたブログサービスです。2007年2月のサービス開始から一年経っても会員数は6,500人程度だったのですが、現在ではブログ開設数260万件以上、月間65億PVというメガサービスとなり、ランキング上位のブロガーが開発したカラーコンタクトは、1カ月弱で1万8,000枚を売り切ったと言います。
これらのサービスのポリシーとして「徹底的に顧客目線に立ち、ユーザーの共感を得られないマネタイズは行わない」というのが共通しています。「DECOLOG」は他のブログサービスと異なり、人気ブロガーにこっそり企業のタイアップ記事を書かせることはしません。企業から渡された商品であることを読者に明示した上で、商品に対する感想はブロガーに自由に書かせる前提でタイアップを請け負っています。その理由を、“(こっそりとタイアップ記事を書けば)ブロガーとしての価値が大きく毀損されてしまう”からだと言います。ターゲット顧客が“共感出来る場”を壊さないために、最大限の注意を払っているのです。
また、サービスが従来のマーケティングによって生み出されていないことも特徴的です。「ニコニコ動画」は、先日ドワンゴ川上会長によって着想のきっかけが語られていましたが“「わけのわからないもの」「説明のつかないもの」「どう考えてもいらないもの」を作ることに非常にチャンスがあると思った”と明言されています。「クックパッド」も毎日の料理を楽しみできることにチャレンジしている企業であると、創業者の佐野陽光氏によって語られています。そして「アットコスメ」もまた、消費者主導の購買構造を作りたいという想いによって作られ、「DECOLOG」も当時はエロ漫画の広告バナーが張られたブログサイトだらけである現状において、女の子たちがきれいに作ったブログをカワイく発信させてあげたいという想いから誕生しているのです。
いずれも、顧客への徹底したインサイトか、創業者の理念によって事業が作られているのです。そもそもマーケティングをしていないので、成熟したターゲット顧客が市場に存在しているわけもなく、市場の流れがサービスに追い付くタイミングまでサービスを保持するか、あるいは顧客と一緒に市場を作っていくことになります。これが、マネタイズまでに長期間を要する原因です。しかし、一度顧客との関係性が構築されてしまえば、顧客が離れず高利益率を維持することになります。競合他社が同じ“ハコ”を用意したとしても、自社サービスとの差別化要因は“顧客と培ってきた関係性”という明示できない要因になるからです。
すべてのサービスが、創業社長による直轄のプロジェクトであることも特徴的です。数年間利益が出ないかもしれない(そして、確実にヒットする保障のない)サービスに創業社長以外がGOを出すことが出来ないからです。中でも既に上場企業となっていたドワンゴが、多額の投資を必要とする動画サービスに踏み切ったことは異例中の異例な気がします。
ということで、個人的には現状の市場を分析した上で差別化を図るマーケティングモデルではなくて、顧客インサイトや個人の理念による「ユーザー共感型サービス」に今後も期待したいです。ユーザーの共感を得て、一緒に市場を作っていくのはイノベーションだと思うのです。
村井愛子