官僚暴走の医薬品ネット販売規制を違法とした画期的判決に思う

大西 宏

小飼弾さんが、シャレで「政局より薬局」というエントリーを書かれ、冷静に見れば想定内の判決であった小沢元代表の虚偽記載容疑を無罪として判決よりも、東京高裁がケンコーコムとウェルネットが起こした一般用医薬品のネット販売規制に関する行政訴訟で、一審の判決を一部取り消し、一般用医薬品のインターネット販売を含む郵便等販売を認める判決を下したことのほうが意味が大きいと問題提起されていました。
404 Blog Not Found:news – 政局より薬局 :


思い出して欲しいことがあります。3年前の2009年に薬事法が改正され、マスコミは規制緩和だ、深夜に急に熱が出た時にも近くのコンビニで薬が買えるようになると喧伝したものでした。ドラックストアとの提携に走るなど、浮き足立ったコンビニもありましたが、名目は規制緩和でも、実質は登録販売者制度でコンビニの医薬品販売を縛ったもので、規制緩和の仮面をかぶった規制強化でした。常識で考えてもパートの店員さんで成り立っているコンビニに、24時間、1年以上の医薬品販売に従事したキャリアを持ち、試験に合格しなければならない登録販売員をはりつけることなどありえなかたのです。当時に規制強化だと書いたブログを懐かしく感じます。
厚生労働省に乗せられたマスコミ? – ライブドアブログ :

2009年の薬事法改正は、規制緩和どころか、既存の医薬品販売ルートを守るための規制強化だったのです。それだけでなく当時は医薬品のネット販売にまで規制の手を広げました。判決理由は、本来改正薬事法で定められていなかった省令での「販売の制限」自体が法律に違反しているというもの、勝手に法律を超えて、官僚が規制の枠を広げ、罰則をつくってしまったというものでした。
医薬品ネット販売認める判決–「異常な状態に終止符を」後藤氏 – CNET Japan :

静かに進行した事件だったと思います。厚生労働省が自らの思惑で、医薬品の既成流通保護となる規制を露骨に行っただけでなく、規制緩和で国民の利益になるとマスコミも一斉に間違った情報を流したのです。
不思議だったのは、少しでも医薬品販売に関する知識、コンビニの店舗運営に関しての知識があれば、違った報道になったはずでしたが、それを調べなかったのか、あるいは厚生労働省に利用されたか、協力したことになります。官僚とマスコミに騙されたのは国民です。この構図の怖さに背筋が凍る思いをしたことを今でも思い出します。

想像ですが、厚生労働省としては医療費抑制のために、医科向け薬品のなかで安全性が高く、一般薬とできそうなものをスイッチOTCとしていきたいということがあったのではないでしょうか。そのためには薬剤師の管理体制を強化したい、しかしそれはドラッグストアの負担が増えるので、ドラッグストアの経営の脅威となるネット販売を規制という見返りを与えたとも読めるのです。実際医薬品のネット販売を行なっている企業は大きなダメージを受けました
薬のネット販売、時が止まった3年間:日経ビジネスオンライン :

この医薬品販売規制で起こったことは小沢裁判でも同じ事を感じます。東京地検が自らの正義感なのか、別の力が働いたのかは知るよしもありませんが、何れにしても官僚が暴走し、違法な取り調べ、また調書や証拠品の偽装まで行なって裁判に持ち込みました。しかもマスコミや評論家が、また政治家も、当の容疑内容ではなく、巨額の裏金が流れた容疑であるかのような印象まで作った構図と似ています。

小沢元党首とは政策については考え方が異なるところもあることを念のためにお断りしておきますが、法治国家としてはあってはならないことだと思うので、これまでの地検特捜部やマスコミの報道には疑問を感じるのです。まったく問題の次元が異なります。

それにしてもこのネット販売規制を違法とした判決の報道の扱いが小さいことには驚きます。ここに書かせていただいたように、それは日本の統治のあり方、民主主義のあり方にも関わってくる問題だと思うにもかかわらずです。

医薬品で感じるのは、むしろ中央官僚の組織再編、人員配置の見直しです。医薬品の審査にかかわる審査官は諸外国と比べ少なすぎ、許認可に時間がかかりすぎているのが実情です。さらに、日本が今後産業育成していくべき医療機器の審査ではそれよりも悲惨な状態です。つまりただたんに人員削減で、リストラせよというのは、日本の成長戦略や国民の利益になりません。人員や人件費削減だけでなく、組織を再編し、国民、また経済成長のために健全に機能させるという観点も必要なのです。それがリストラの本当の意味です。