相変わらず意味不明が続く世田谷新区長

山口 巌

久々に世田谷新区長のブロゴス記事を拝読。世田谷新区長には申し訳ないが、相変わらず意味不明と言わざるを得ない。


一年前、アゴラ記事、意味不明な世田谷新区長の主張で下記の如き苦言を呈した。

問題は区民の良識なるものの中身が意味不明な点である。保坂氏は今回の選挙を、原発から再生可能エネルギーへに焦点を当て戦われ勝利されたと理解しているが、一体世田谷区として具体的にこれをどう進めると言うのだろうか?脱原発と言った所で、世田谷区が新たな原発建設計画を進めていた訳ではない。それとも、密かに下北沢や三軒茶屋のビルの地下にコンパクトなマイクロ原発を建設する計画でもあったのだろうか?或いは、原発との共存共栄路線の継続を決めた敦賀市の様な市町村を暗に批判しているのだろうか?仮にそうならば、偏光したイデオロギーや小賢しいパーフォーマンスとは無縁に、純粋に原発と向き合う事を決めた敦賀市民に対し余りに失礼である。全体最適により、決して原発が建設される事もなく、電力が優先的に供給されるであろう世田谷区の驕りではないのか。具体的に、世田谷区として30%に達する、電源を原発とする電力供給分を節電すると言うのであれば、東京電力の負荷軽減に直結する訳で、高く評価する。

その後、一年が経過した。

「原発から再生可能エネルギーへの転換」であれ、「省エネ」であれ結局何も出来ていないのではないか?もっと厳しく言えば、何もやっていないのではないか?そもそも当初からやる気が無いのではないか?

今回の記事タイトルは、5月5日、「全原発運転停止」から「脱原発依存」に方向転換をであり、一年前の、「再生可能エネルギー」が綺麗に削除されている。

これだと、世田谷区や新区長が主体的にやるべき事は何もない。グラウンドのバッターボックスに立つべき人間が、一年経ってスルッと体を入れ替え、外野席での「野次係り」になってしまった。

全くお気楽なものである。

記事ではドイツの実例を参照して現内閣を批判している。

しかしながら、世田谷区としてやるべきは、ドイツでの成功例を参照して自ら実践する事ではないのか?

最新のエネルギー白書に興味ある記事を発見した。

日本で国民一人あたりのエネルギー消費が増加する一方、何とドイツではこの30年間で随分減少しているというのである。

私の自宅がある、横浜市都筑区は国内で唯一のドイツ人学校がある事からドイツ人も多く住んでおり、時々Cafeで話する事もあるが、世帯当たりの消費電力が、30年で半分になったと言う話を聞いている。

これ等は、世田谷新区長のリーダーシップで世田谷区が全国に先駆け達成可能な施策ではないか?

勿論、区民に我慢や不便を強いる場面もあるであろうが、政府に文句ばかりを言うだけよりは、遥かに建設的ではないだろうか?

今一つ気になるのは、相変わらずの経済観念の欠如である。

原発停止に拠る電力不足をどうやって代替するのか、何一つ具体的に述べていない。

エネルギー白書が示す通り、GDPの伸びは、エネルギー消費量増加に正比例する。

露骨に言ってしまえば、具体的な代替案不在のまま原発を停止すれば、日本は確実に貧しくなる。電力不足に依り、製造業の海外移転が加速すれば事態は更に重篤になる。

若者は職を得る事が出来ず、失業者の数が跳ね上がり、貧困層が増加し社会不安に直面する事になる。

こういう事態になったらなったで、「経済施策の不在」とか適当なネーミングで、何時もの様に政府を他人事の様に批判するのであろうが、これではどうしようもない。

最後は、市民スクールとやらでのドイツ人から質問関連である。

先週、世田谷区内で開かれた自然エネルギーに関する市民スクールで、ドイツ人から質問を受けた。「ドイツでは、福島第一原発事故の後で世論も政府の政策も変わった。日本では、世論の変化はあるようだが脱原発への転換がはっきりしないのはなぜか」 …私もその回答を知りたいような質問だった。

推測するに、このドイツ人の質問内容を自説の説得材料としたいのであろうが、これは逆効果と思う。

寧ろ、世田谷新区長が如何に「意味不明」かを如実に表しているだけである。

ちなみに、私なら下記の様にこのドイツ人に回答する。

日本とドイツは状況が大きく異なっており、従って対応が異なるのは極めて当然である。

それでは、具体的に何が異なっているのであろう?

先ず第一に、ドイツには豊富な石炭資源があり、エネルギー安全保障の意味合いからも現在の石炭火力の割合46%は維持する事になる筈である。詰まりは、発電の約半分は「酸性雨」や「二酸化炭素排出」の問題はあるものの盤石である。

更に政治的な理由からも、ロシアからの天然ガス輸入増加が既定路線と聞いている。仮に天然ガス発電の割合が10%増えれば、石炭火力と合わせ合計70%は確保と言う事になる。

一方、日本は石炭含め、石油、液化天然ガス全て輸入で賄っている。原発停止代替の主役は液化天然ガスと予想されるが、日本の輸入価格が他輸入国に比較して格段に割高である点が意外と知られていない。

今一つ重要な点は、欧州に於いては電力の相互融通が極めて一般的であると言う事実である。

エネルギー白書第122-1-4が興味深い。

現在、ドイツは電力の輸出が11%、輸入が8%。

これに比べフランスは輸出が13%、輸入が2%で大幅な出超である。

一方、イタリアは輸出が1%、輸入が14%。どうも電力の自給自足等念頭になく、お洒落でクールなベネトンのニット製品を輸出して、電力の輸入代金に充当するとの考えの様だ。

穿った考えをすれば、フランスのギリシャ化を阻止する為には、ドイツはフランス製品を輸入する必要があり、「電力」が最も相応しいのではないか?

ちなみに、ドイツで原発が停止され、一方、この不足分を補う為フランスで原発が新設され、ドイツに売電されると言うケースは充分に想定される。

この場合、ドイツ国民に取って嫌な物、詰まりは「原発」を隣国フランスに押し付けただけではないのか?

この資料はエネルギー白書の数字をベースに作られた物であるが、フランスが欧州の電力供給国になるであろう状況を判り易く示しているのではないか?

この質問をしたドイツ人には、今少し本質的な説明をした方が良いのかもしれない。

ドイツが現状EUの中では政治的、経済的に最も成功しているのは事実である。

しかしながら、ドイツ繁栄の背景はドイツ経済の実力に比べ安過ぎるユーロの存在がある。

詰まりは、ドイツの繁栄の為には、ギリシャ、イタリア、スペイン等の存在が不可欠であり、言い換えれば、欧州の債務問題がなければ、ドイツの成功もない。

この様な歪な経済体制が長続きしないのは明らかであろう。

日本政府は昨秋EFSF債購入を決定した

債務危機に陥った国などを支援するEFSF=ヨーロッパ金融安定化基金の格下げを受けて、安住財務大臣は、EFSFが発行する債券を日本政府が購入する方針に変わりはない-という考えを示しました

又、債務問題対応資金調達の為のIMF対応も4.8兆円もの巨額融資を早々に世界に先駆け決定し、流れを決めた。

勿論、融資は根本解決の為の時間稼ぎに過ぎず、ドイツを含む欧州各国は真剣に問題に向かい合わねばならない。

ドイツ人は、恩人である、債権国日本を批判している「場合」、「立場」にはないのである。

私なら、相手の表情を観察しながら、英語の助けを借りながらもなるべくドイツ語で判り易く、噛み砕いて説明する。

こんな質問に、それなりの立場にある人間が納得すると言うのは本当に「日本の恥」と思う。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役