ひさしぶりの「闘うコンプライアンス」シリーズですが、ソーシャルゲーム(アイテム課金制の無料ゲーム)で急成長のグリー社、DeNA社のコンプガチャ(ソーシャルゲームにおいてレアモノのカードを入手するための絵合わせ電子くじ)が景表法違反になるのではないか、との報道がなされ、両社とも株価が急落したとのこと。消費者庁としては、まだ違法性の疑いがあるかどうか、リリースはしていないようです。
カード合わせ、絵合わせによる懸賞くじは、たしか1960年代から景表法によって全面禁止だったように記憶しております。その昔、某キャラメルのおまけで巨人軍の選手と監督のカードを全部集めると豪華景品がもらえるとのことで、必死になって集める子供たちがいて、そのうちキャラメルだけ捨ててカードだけ集める、ということが社会問題となったのが規制の発端ではなかったかと。銀のくちばしを5個集めて「おもちゃの缶詰」がもらえる森永チョコボールとどこが違うのだろうか・・・と素直に疑問を感じておりました。
消費者法はあまり詳しくございませんので、このコンプガチャが景表法違反に該当するのかどうかはコメントいたしませんが、消費者庁が「景表法違反の疑いがある」と各方面に広報する、ということになりますと、グリー社等は(コンプガチャによる売上が、ゲーム事業の収益の9割を占める課金制度なので)今後の収益に大きな影響が出てくるのかもしれません。いずれにしても、ゲーム会社にとって一大事となりましたので、もし今後景表法違反の疑いがあり、消費者庁から排除措置命令の可否に関する呼び出しなどがあった場合、どう対応すべきか、という点が企業の課題となるところであります。
消費者庁が、不正行為と判断したとしても、あくまでも行政当局の判断です。もし反論があるのであれば、事前手続きで弁明すればよいでしょうし、排除措置命令が下りたときには不服申し立てをすればよい、ということになります。当局の解釈が絶対ということはありませんから、司法の場で争えばよい、まさに新潟県加茂市と正々堂々と闘ったファストファッションのしまむら社のように、闘うコンプライアンスの姿を貫けばよいと思います。
ただ、このコンプライアンス経営のご時世、景表法違反の疑いをかけられた企業が、本気で消費者庁と闘うには相当の勇気が必要です。排除措置命令や警告、というものが下りた場合、もちろん不服申立、取消訴訟は可能ですが、行政処分は止まってくれません(行政行為の公定力)。つまり不正行為を継続する企業としてのレッテルを貼られたままです。レッテルを貼られるとどうなるか?金融機関は「コンプライアンス違反企業」に融資を継続してくれるでしょうか?大手小売業者は商品の棚を提供してくれるでしょうか?ソーシャルゲームのひとつとして、遊ぶ場所を携帯各社は提供してくれるのでしょうか?それぞれの企業にとって、不正行為の助長による収益拡大はコンプライアンス違反です。各社とも、消費者庁の是正命令に従うことを条件に取引を継続する、ということになるのではないかと。
被害者団体から訴訟を提起されたり、将来収益への疑問から株価が急落することはまだマシです。時間をかけてゆっくり対応しても大丈夫です。しかし、消費者庁と正々堂々闘うことは「自分が正しい」と考えている上場会社にとっては賞賛されるべきですが、その闘っている期間、商品の販売ができなくなってしまう可能性が生じる、ということです。これが景表法違反を争う場合の最大の問題です。かつてはこんな状況にはならなかったと思います。しかし他社がコンプライアンス違反に敏感に反応してしまうようになった分、景表法違反は企業の息の根を止めてしまうほどの威力をもつようになり、結局争いたくても争えない状況に置かれてしまいます。
世間では(意外と)景表法違反問題は軽くみられているところがありますが、BtoCの上場会社におきまして、商品を販売するルートは極端に狭められてしまいます。したがって、多少不服があっても行政当局には逆らわない(逆らえない?)という道を選択してしまいます。今回のグリー社らも、今後どのように景表法問題に対応していくべきか、正念場を迎えることになりそうです。
編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年5月7日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。