フランス大統領選挙で、社会党のオランド候補が現職のサルコジを破った。
両者の違いは、税制を巡るスタンスに端的に表れている。
オランドが高額所得者への最高所得税率を75%(!)に引き上げることを公約とするのに対し、サルコジは消費税が最も効率的で公平だとのスタンスだった。要するに、市場経済に対するスタンスの差だろう。
「経営者が2億円も報酬を得ていることが許せますか?」という発言からも新大統領の市場経済に対するスタンスがよくわかる。もっとも、多分に支持層向けのポーズも入っているだろうから、これからどんどん軌道修正していくと思われるが。
さて、今回のフランスにかぎらず、ヨーロッパではいまでも社会民主主義政党が一定の勢力を維持している。たとえば、90年代に経済危機からスウェーデンを再建し高福祉国家を成立させたのはスウェーデン社会党だ。
同じ社民主義を標榜しつつも、なぜ日本の社民党はここまで落ちぶれてしまったのか。一見、同じ看板をかけてはいるが、中身はまったく別物だからというのが筆者の意見だ。
意外に知られていない話だが、高福祉で有名なスウェーデンは、同時に徹底した自由競争の国でもある。国は産業構造の転換を最優先し、ダメ企業に税金を突っ込んだりはしないし、労働者の企業間の異動(つまり解雇)のハードルも低い。手厚い福祉や教育などの給付はすべてそれらの上に成り立っているわけだ。
以前から述べているように、大きな政府か小さな政府かの議論は、公によって提供されるサービスの規模で決めるべきであり、そのサービスを最大化するために市場を最大限活用するというのは、別に社民主義とは矛盾しないはず。少なくともスウェーデンの社会党は、そういうスタンスにたって行動しているように見える。
一方で、我らがみずほちゃん率いる社民党である。筆者はたまにあの辺の人達と(仕事で)話すこともあるが、はっきり言うと「どうやってパイを増やすか」について、彼らが口にしているのをいっぺんも聞いたことが無い。
出てくるのはたいがい「いかに企業活動を制約するか」「1円でも多く国からふんだくるか」という程度の低い話ばかりで、言っちゃなんだが、スウェーデンの真逆である。
だからヨーロッパで社会民主党系の候補が勝ったというニュースと、日の丸社民党が金欠で党本部を売却するというニュースが同時並行で入ってきても、個人的にはそれほど驚きはない。彼らはもともとまったく別種の存在だったのだろう。
思うに、経済全体が成長し続け、かつ国内だけを考えていればよかった時代には、いかに企業を虐め抜くかだけを考えていれば、それで何とか回ったのだろう。60代以上のリタイヤ世代と(競争しなくていい)公務員労組に、今でも彼らの支持者が一定数いるのは、その名残だと思われる。
フランスの新政権の政策には色々な意味で注目すべきだ。EUという経済活動にとって敷居の低い域内で、パイを増やしつつ再分配を強化しようとすれば、考えられる選択肢はそう多くない。それは日本で真面目に再分配を考えている人達にとっても参考となるに違いない。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2012年5月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。