緊縮財政が嫌われた日 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

フランスでは雇用拡大を訴えるオランド氏が大統領に、ギリシャでは緊縮財政に疲れた国民の声が安定的だった与党を崩し、世の中の流れを変えるかもしれない一日となりました。

財政赤字を一定枠に押し込めるためにユーロ各国はなりふり構わぬ財政支出カットで経済や雇用は悪化、スペインの不安は無理やり箱の蓋を閉めているもののいつそれが暴発してもおかしくない状態です。


緊縮財政は政府部門の赤字の結果であり、ヨーロッパだけではなく、アメリカでも日本でもそれはもはや当たり前のごとく行われていますが、その結果、経済がいつの間にか筋力を落としてしまい、それを筋肉増強剤である金融緩和という手法で補っているとしたらどうでしょうか? 正しく使えば相乗効果があるものの使い方を誤ればバランスを壊します。

確かに10数年ぐらい前にも均衡財政が盛んに謳われ、カナダでもそれを達成ししばらく黒字が続きました。アメリカでも98年から01年にかけて黒字でした。しかし、それ以降、黒字になることは徐々にハードルが高くなり、本来であれば、黒字と赤字を行き来するぐらいが良いはずがもはや黒字達成をすることがホームラン級のターゲットとなってしまいました。

カナダは依然2015年会計年度に黒字奪取を目指しており、先進国では最も財政バランスが取れた国であり、各国の手本となっております。しかし、その達成の為に国民サービスが大きく削り取られることはしばしばであり、カナダ政府は多少の犠牲を払いながらももっと大きな目標の為に着実にまい進しているような気がいたします。

例えば、高齢者向け住宅の連邦政府の補助金は長らく切られ州政府はその資金援助なくしてプロジェクトを推進できない状態でした。あるいは、今回、カナダ政府は東京のカナダ大使館を通じたビザの発給をフィリピンのマニラに移管することを発表しました。ドイツのカナダ大使館も同様でオーストリアへの移管となります。これはある意味、日本人にとってはかなり衝撃的でありますが、一般企業並みの効率化ゆえの判断とのことですから、目標設定とそこへ到達する為には多少の犠牲をいとわず、という風に見えます。

カナダに於ける緊縮財政は出口が見えるからこそワークするということでしょうか?

日本の場合、社会保障費以外の財政支出は長年、削減傾向。それでも歳出総額は増え続け、歳入は減り続けます。ここに来て消費税反対の声は一層大きくなってきた気がいたします。これも緊縮財政の上に増税はもうカンベンしてほしいという日本国民のボイスだとすればフランス、ギリシャの選挙結果が日本の向かっている方向だともいえるでしょう。

頑張っても生活は一向に改善せず、将来に夢も希望もなく、ビジネスは中国、韓国の激しい追い上げに寝る時間を惜しんで努力し続けなくてはいけません。それなのに家電業界のように競争に勝てず、沈没しかかっている中、国民には疲弊感と悲壮感が蔓延しています。

アメリカでも同じ。景気の回復は匍匐前進からやや停滞ぎみ。格付けは最上級からランクダウンし、地方政府の破綻など厳しい状況にあるにも拘らず、アップルやフェイスブックの様な一部のヒーローがレッドブルの様な役割を果たしているように見えます。

総じて考えればカナダは自力で出口が見えてきた優等生、アメリカはエナジードリンクで頑張り、ヨーロッパは国民が反旗ののろしを上げたということでしょう。日本では5月、いよいよ、消費税が国会に登場すると思います。この最後のバトルが政治技で決着するのか、ヨーロッパ同様、国民が遂に立ち上がるのか、ということかもしれません。国民のボイスの高まりを感じた熱い日曜日だったと思います。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年5月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。