大失業時代をどう生き抜くか?

山口 巌

昨日のアゴラ記事、大失業時代の到来を予測するに対し、早速、辻先生より下記コメントを頂戴した。

辻 元 ・ トップコメント投稿者 ・ 54歳
この内容は、常識的なものだと思いますが、だから、どうする、という視点があったらもっとよかった。


良い機会なので、私の活動の経緯、結果も踏まえ説明してみたい。

先ず、何故失業問題が生じるかである。基本的には、「雇用の創造」が充分でない事が第一の原因である。企業の規模縮小、海外移転、廃業そして最悪の場合倒産は不可避であり、これら雇用の消失を補うだけの新たな「雇用の創造」が無ければ、失業問題は発生する。

日本の如く、雇用の消失にドライブがかかり、一方、政府の無策もあり「雇用の創造」が手付かずととなり、結果放置されている様な現状では、当然の事ながら失業問題は重篤化する。

それでは、日本企業が何故かかる事態に陥ってしまったかである。形而下的には、売り上げの伸び悩み、それに伴う「薄利ビジネス」の蔓延や赤字化と言う事であろう。

そして、この根底にあるものはアゴラ記事、「マス」無き後、若者はどう生きるべきか?で説明した通り、「マス」は消失してしまったのに、企業が、相変わらず「マス」をターゲットにしようとする、自家撞着があると思う。

この春は、家電各社が空前の赤字決算を発表した事から、家電業界の将来が不安視されている。 問題は、何故この業界がかかる重篤な事態に陥ったかである。 「マス」が消失したにも拘わらず、相変わらず戦後松下幸之助氏が成功した、「大量消費」を前提とする、「大量生産」を踏襲しているからであると思う。 冷蔵庫一つ取っても、日本の主婦が欲しいと思う製品は、「色」、「デザイン」、「容量」、「性能」すべてまちまちである。 とは言え、家電量販店をあちこち見て回っても、結局ピント来る商品に出会う事はない。 欲しい商品が無ければ、より廉価な商品に向かうのは当然であり、日本メーカーが韓国や中国のメーカーに駆逐されるのは当然の結果である。

私が、こう考える様になったのにはそれなりの背景がある。アゴラ記事、半年で売り上げを4倍にしたで取り上げた、ケータリング会社、Sushi&Beyond社の括目すべき成功実績である。尚、余談となるが、同社は昨年末に半年で売り上げ4倍達成以降も順調に業績を伸ばし、新規雇用にも熱心である。

結局の所、振り返ってみれば、市場はあるのか?を先ず見極め、その市場に対し、自分達は何がやりたいのか、何が出来るのかを自問自答し、「原価管理」に配慮しながら顧客の求めるものを愚直に提供し続けたという事に尽きると思う。

最も大事な事は、個々の顧客の心の奥底にある、それこそ「夢」のパーティーや結婚披露宴の内容を汲み取り、提案と言う具体的な営業手法で提示する事である。そして、提案内容が顧客の望むものであれば、顧客は大いに喜び当然発注がなされる。

そして、実際のパーティーや結婚披露宴が期待以上のものであれば、当然リピーターとなるであろうし、顧客が女性であれば女友達に吹聴して回り、Sushi&Beyond社の営業経費を必要としないやり手の営業マンとなる。

一方、ケータリング会社が「マス」を追えば必然的に価格競争は避けられない。採算の悪化から、「ステルマ」の如き、常習性と副作用を伴う劇薬に手を出す事になる。

この経験を踏まえ、今後成功する企業は、最早存在しない「マス」を追いかける大企業ではなく、各個人の心理、意識の深い所まで降りて来て、本人も意識していない願望を捕え、ピンポイントに答える事が可能な小回りの利く小さな組織であると思っている。多分、「ノマド」がこれを担うのではないだろうか?

余談となるが、最近ネットを賑わしているソーシャルゲームに於けるコンプリートガチャ等はこの話の典型ではないか?本来、ニッチな筈のソーシャルゲームを「賭博」と絡める事で「マス」に仕立ててしまった訳である。業界としてサービスを中止するそうだが、勿論、止めれば許して貰える程、世の中は甘くない。

今後、当然厳しい民事訴訟の対象となるであろう。一方、ソーシャルゲームの大量のスポット広告を引き受けた放送局も、世論の厳しい批判に晒される事になると予想する。

今一つ、今後の成長が期待出来る分野として、「ハイテク」特に「高度技術」と「アート」を融合させたサービスを紹介したい。この種サービスが日本初で台頭し、世界を席巻する可能性もあると思う。

私事で恐縮であるが、今月14日(月)に東京駅に隣接するサピアタワーで勉強会とそれに続く懇親会を開催する。既に一か月前に受け付けは終了し30名程度に出席戴く予定である。

勉強会の講師は、㈱テンクー西村社長にお願いしている。西村氏を一言で表するとすれば、「21世紀のレオナルドダビンチ」と言った所と思う。casmiを用いることで、素人には取っつき難いデジタルデーターをビジュアルに見せてみたり、更には「アート」の領域迄昇華してしまう。

casmiを用いることで、解析結果をビジュアルに見せることができます。リアルタイム描画機能を持つため、インタラクティブに操作しながらの解析や閲覧などが可能です。特にゲノムや文献情報といった多量の情報を絵にすることなどに適しています。また、デジタルサイネージ(電子看板)のようなパブリックに情報を提示するシステムにも適しています。

今後、日本の或いは世界のあらゆる場所に同社のサービスが使われ、人々の暮らしを豊かにするのだと思う。

例えば、営業マンのプレゼン手法も一変する筈である。原発立地を示す資料と言えば、従来は下記の様なものであった。勿論、これでもエクセルの表よりは判り易い訳であるが。

一方、casmiライブラリを使って可視化した、Nuclear Plants Map of the world (by Xcoo, Inc.)なら、小学生にでもそれなりに理解可能である。

学校の先生方は学生の努力が足りないとか、思考能力の著しい欠如とか言っていても給料は貰えるが、民間の営業マンは考える事の苦手な人にも理解して貰い、結果として自社の「商品」なり「サービス」を購入して貰わねばならない。それが出来ない様では解雇されるだけである。

更に余談となるが、14日の勉強会には会川アジアビジネス研究所会川社長にも出席戴く。

1993年より5年間、中国の製造合弁12社の設立運営を担当後、1998年より6年間ベトナム、ホーチミン・ブンタウ・ダナン3都市の駐在員事務所長を兼務、主に日系企業の進出・経営支援とベトナム民間中小企業の育成を特命事項として活動。また、2003年度ホーチミン市日本商工会会長としてベトナムの投資貿易環境の改善と日越間の投資貿易促進に努めた。
2004年12月より株式会社会川アジアビジネス研究所を設立し、現職。各種団体・自治体及び民間企業のアドバイザーとして活動。
2005年2月、ホーチミン市人民委員会よりベトナム投資貿易促進に係る貢献を評され、民間人初の「ホーチミン市勲章」を受章。
2008年8月、ベトナムにおける延べ二十余年の商社活動及び経営コンサルタント事業の集大成として「ベトナム進出完全ガイド~ベトナム最新事情と投資貿易実務」(カナリア書房刊)を上梓。

当日は10名強の企業経営者が出席されるが、いずれもベトナムを含め海外移転に興味を持っておられ、有意義な懇親会になると思っている。

さて、「大失業時代をどう生き抜くか?」の結論に移らねばならない。

先ず第一は、大企業が今尚追い求める「マス」を蜃気楼、幻と割り切り、個人個人の心の深い所にある願望を汲み取り、これに応える事で「マネタイズ」を図る手法である。Sushi&Beyond社の成功例は参考になる。「ノマド」に毀誉褒貶があるのは認識しているが、有力な手法と思う。

次は、飽く迄「ハイテク」を極めるやり方である。テンクーの如く「アート」との融合を実現出来れば勿論更に良い。問題は、テンクー社社長の西村氏が東大助教からのスピンアウトであり、現在も東大の客員研究員である事。同社はインターシップを採用中であるが、何れも東大大学院博士課程、修士課程の学生と言う事で採用の対象が極めて限定的な事である。

従って、開発分野は一般の人間は手出しせず、私が今取り組んでいる様に裾野の部分、詰まりは実用化の過程でのビジネスチャンスを捕まえる様にするしかない。腕力が要る事は事実だが、実用化の進展と共に仕事は標準化し、多くの雇用が創出されると楽観している。

最後のケースとして、頭を使う事が得意でもなく、好きでもない人間がどうするかに就いて説明する。上に述べた手法は、矢張りこの種の人達にはハードルが高過ぎる。

現実的な対応としては、矢張り何とか海外展開を加速する企業に潜り込み、仕事の選り好みをせずに早く現地に赴任して、勤め先内での基盤を作ってしまう事であると思う。何分、国内とは違い海外では仕事が山程ある。それに、一旦入社してしまい、海外迄やって来て、足らない所はあるにせよ、必死になって働く社員を、日本企業が馘首するとは思えない。

山口 巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役