あなたはどちらの第三者委員会を信用しますか?(続報・ベリテ社の件) --- 山口 利昭

アゴラ編集部

いつかはこういった事例が出てくるだろうと思い、私は昨年あたりから有識者の方々にお尋ねしておりました。そもそも疑問が湧いたのは、九電やらせメール事件の際に、当時の第三者委員会の委員長の方が「第三者委員会の認定した事実がおかしいというのであれば、佐賀県(知事)側も第三者委員会を設置して調べれば良いではないか?」と述べておられた際、本当に佐賀県側が第三者委員会を別途設置したらどうなるんだろう・・・と不安がふとよぎったからであります。

「たとえば社内不祥事が発覚したケースにおいて、敵対する大株主と現経営者がいずれも第三者委員会を設置して報告書を提出した場合、もしくは現経営者と監査役会が別々に第三者委員会を設置して報告書を提出した場合、その取り扱いはどうすればよいのでしょうか?」

過去にはフタバ産業さんやカブドットコム証券さんの不適切会計処理、インサイダー事件等において現経営陣と親会社推薦委員による二つの調査委員会の意見が分かれたケースはありましたが、私が懸念していたような事例が出たのは初めてではないかと思います。すでに当ブログでも過去に二度ご紹介している宝飾品製造販売大手のベリテ社(東証二部)において、監査役会が設置した第三者委員会(調査報告書を提出済み)と、取締役会が設置した第三者委員会(こちらは検証報告書を提出済み)との意見が食い違い、取締役会としては監査役会設置にかかる第三者委員会の事実認定は採用しない・・・という判断に至ったようであります(同社5月17日付けリリースはこちらです)。とくに本リリースにおける取締役会の監査役会に対する非難がなかなかスゴイ。。。

「今回、当社監査役会は、まったく独自の判断に基づき、調査委員会の設置と調査委員会による調査実施を決定したものでありますが、当社取締役会といたしましては、その慎重さを欠く拙速な判断により、必要性を欠く調査の実施が決定され、また、その公表により、当社の名誉及び信用が根拠なく著しく傷つけられ、さらには、回復基調にあった当社株価の急落により投資家に甚大な損害を与える結果となったことは、遺憾の極みであります。」

「また、調査委員会から、常勤監査役の増員が提案されているところ、当社取締役会としても監査役会の機能強化を図ることには何らの異論もなく、むしろ、本件に関する手続上の不備等について監査役からの指摘がなかったことや、これまでの監査役の当社のガバナンス及びコンプライアンスへの貢献度の低さに鑑みれば、現在の監査役会の体制で十分であるとは到底評価できないと考えるものであり、第68 期定時株主総会において、常勤監査役を増員いたします。」

とくに後半の記述は取締役会の真摯な対応、というよりも「余計なことをしてくれたもんだ」といった監査役会に対する恨み節に聞こえるのは私だけでしょうか(^^;;。なお、これに対しては近々、同社の監査役会から意見を開示する、ということだそうであります。

私はベリテ社の取締役会にも、監査役会にも与するものではございません。なので単なる野次馬的な立場での考察にすぎませんが、少し取締役会のリリースには素朴な疑問が湧いてきます。これまでの同社リリースを総合しますと、まず同社監査役会は今年2月に外部からの情報提供を受けて「取締役」の不正を調査し、相当の嫌疑ありとして外部の調査委員会の設置を決めました。そして、取締役会が、この調査委員会の報告書を受領した後、監査役会からの要望にもかかわらず、その調査報告書を開示しませんでした(簡単な結論部分のみリリースにて紹介)。この取締役会の決議に監査役会は同意しませんでした。その後、取締役会で検証の必要ありとして別途第三者委員会を設置して、その検証結果に基づいて、元の調査委員会報告書を開示しないと決めたようです(ちなみに元の調査報告書の調査実務は、大手法律事務所の方々が担当されていらっしゃいます)。

しかしそうであるならば、そもそも「不正あり」と嫌疑をかけられている取締役は一体どのような立場なのか、代表取締役なのか、それ以外の取締役なのか、また問題とされている取締役は、上記の一連の取締役会決議に参加しているのかいないのか、そのあたりはリリースにおいて開示しなければならないところかと思われます。これまでの3通のリリースを読み返しましたが、どこにも嫌疑の対象となっている取締役は代表者か否か、また当該取締役は「利害関係者」として取締役会の議事に参加しているのかどうか、ということには触れられておりません。不正に関与したとされる取締役の方が、監査役会と対峙する有事において、当該取締役会に参加しているとすれば、そもそも一連の取締役会の監督機能など全く無視されているものでありまして、リリースが信用されるはずもなく、どうみても監査役会の行動のほうが株主共同利益を図る意味で適切ではないか、と思えます。

このような取締役と監査役との対立が、一体どのような力学の上で演じられているのか、その真相は未だよく把握できないところです。ただ、一連の騒動によって株価が急落し、さらにこのたびの件に関する調査費用は業績下方修正の原因にもなっているそうなので、ベリテ社の役員にとっては本当に有事対応が求められる場面となっております。海外の親会社との関係でも説明責任を果たさねばならないところかと思います。取締役会の行動もさることながら、投資家や一般株主は、こういった場合にどちらの第三者委員会を信用することになるのか、今後の監査役会の対応も含めて注目しておきたい事例です。


編集部より:この記事は「ビジネス法務の部屋 since 2005」2012年5月21日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった山口利昭氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はビジネス法務の部屋 since 2005をご覧ください。