つながりの仕事術~「コワーキング」を始めよう (洋泉社新書y)
「従来と同じことをやっていても、新興国には勝てない」
「イノベーションが必要だ」
ビジネスマンだったら、こんなセリフを、きっと一度や二度は耳にしたことがあるに違いない。ただ、じゃあ何が答えなのかというと、知っている人はいないだろう。既に知っているのならそれはイノベーションでも何でもないから。
とはいえ、それが生み出されるコツは示すことが可能かもしれない。そんな可能性のいっぱい詰まったのが本書だ。
「パーティーするように仕事をしよう」
本書はまずこの言葉から始まる。確かに、リラックスした空間でいろんな人と気兼ねなく話すことは、とても刺激的で、クリエイティブな時間をもたらしてくれる。それが同じ社内の人間だけではなく、いろんな企業、業種の人間ならなおさらだ。
それを可能とするのが、「コワーキングスペース」である。
著者の一人は、2010年に東京初となるコワーキングスペース「パックス・コワーキング」を経堂に立ち上げ、約2年間運営に携わっている。以来、仕事に行くのが楽しくなり家族からは「仕事なのに、最近楽しそうね」と言われるそうだ。冒頭の言葉は、そんな著者のコワーキングに対する想いがつまっている。
ノマドと違って、そこには常に仲間がいて、休憩時間やアフター5にはいろんな雑談を楽しめる。なにか困ったことがあれば互いのスキルや知識を共有できるし、会話の中から、新たなプロジェクトのきっかけが生まれることもある。
「ノマドやオフィスシェアリングと何が違うの?」と疑問を持つ人もいるだろう。違いは“コミュニティ”の有無にある。
原理的なコワーキングスペースの定義は「コミュニティが中心にある」ということになるでしょう。従来のシェアオフィスやレンタルオフィスが施設ありきなのに対して、人の参加を軸に運営されるのがコワーキングスペースなのです。
もちろん、コミュニティといっても、集中して仕事をしたい時はすればいいし、忙しくてそれどころじゃないという人もいるはず。ただ、コミュニティへの参加を楽しまない手は無い。それこそ“パーティー気分”の正体であり、様々な刺激をもたらしてくれるものだから。
コワーキングスペースにもよるが、基本的に多様な人の参加を期待しているので、フリーやスタートアップ直後の起業家はもちろん、学生やサラリーマンの参加もウェルカムだ。参加スタイルもいろいろあって、正式なメンバーから、一日単位のドロップと呼ばれる利用法もある(詳細は各スペースに要事前確認)。
まずはJellyと呼ばれる定期的に催されるパーティーイベントに顔を出して、コミュニティの空気を感じてみるのがいいかもしれない。
筆者は、これからの日本が、労働の量で勝ち残っていくのは厳しいと考えている。とはいえ、なかなか労働の質への転換もドラスティックには進まないはず。
今の組織に籍を置いたまま、手軽の外の知識と触れ合える環境は、これからの日本の労働を考える上で、重要な意味を持つのではないか。そんな可能性を感じさせてくれる良書だ。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2012年5月26日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。