拙速すぎる「違法ダウンロード刑罰化」ー基本的人権に配慮して十分議論すべき

城所 岩生

5月24日付毎日新聞によると、違法ダウンロード罰則案がいよいよ国会に提出される模様。政府提案の著作権法改正案を自民、公明両党が議員立法の形で修正する提案である。民主党内では反対論もあって4月の党文部科学会議では合意に達しなかったが、「政府提出の著作権法改正案成立を条件に容認する方向になっている」と報じている。表現の自由、プライバシー、通信の秘密、情報へのアクセス権など基本的人権にかかわる修正を、十分議論せずにドサクサに紛れて通そうとしているのは問題である。


背景には違法ダウンロードが音楽CDの売り上げ減につながったとする日本レコード協会など業界団体の強い意向があるとしている。協会は2010年8月、全国の12~69歳の男女約5000人にネットを通じてアンケートを実施。うち1200人余りが「違法ダウンロード経験あり」と答えた結果をもとに、違法ダウンロードによる損害額を推定している。

スイスとオランダは昨年末、相次いで私的目的にダウンロードを合法化した。両国政府とも、こうした業界団体の調査を鵜呑みにせずに、独自に実態を調査した。スイスの調査では15歳を超えるスイス人の3分の1が海賊版の音楽、映画、ゲームなどをインターネットからダウンロードしていることが判明した。日本の4人に1人を上回る数字である。しかし、人々が娯楽に費やす金額は変わっていないことが判明。オランダ政府の調査では音楽をダウンロードする人は、しない人より頻繁にコンサートに足を運ぶこと、知名度の低い音楽バンドはファイル共有によるサンプル効果で売り上げを伸ばしていることなどがわかった。

スイス政府の調査は、最近、違法ダウンロードに刑事罰を導入したフランスが採用した三振法もその合法性に疑問があるとしている。三振法は違法ダウンロードを3回くりかえした利用者に刑事罰やネット接続切断などの制裁を課すものだが、国連の人権委員会がインターネットへのアクセスは基本的人権であるとしていることから、合法性を疑問視。そのフランスでもオランド新大統領は三振法の再考を求めている。

オランダ政府の調査は、ファイル共有が音楽、映画、ゲーム産業に及ぼす経済効果や文化的効果について分析した。経済効果については、オランダ経済に毎年1億ユーロ(100億円)の富を生み出しているとした。文化的効果については、ファイル共有は人々に様々の文化財にアクセスする機会を与えるとしている。ファイル共有でコンテンツをまず試して、後で買う人も多い点も指摘している。ダウンロードしたコンテンツを買わない人も多いかもしれないが、ファイル共有が生み出す大メディア図書館へのアクセスが可能になることで、オランダ市民の文化的な富は増すとしている。

しかし、国民の30%が違法にダウンロードしている実態に鑑み、2011年末、議会にダウンロード違法化法案が提案された。オランダ議会はダウンロード違法化反対派が提案した、私的目的のダウンロードを認める動議を採択した。ダウンロード違法化は情報の自由な流れを制約するため、自由でオープンなインターネットの思想に反すること、表現に自由も制約すること、違法ダウンロードを取り締まるためにインターネットの利用を監視することは、利用者のプライバシー侵害になること などが容認する理由だった。

毎日新聞記事によれば、衆院では政府提出の著作権法改正案の質疑終了後に、議員立法による刑罰化の修正案を提案し、論議をせずに衆院通過を図る異例の筋書きも検討されているという。基本的人権にかかわる修正を論議もせずに通そうとするのはあまりにも乱暴である。同記事は鈴木寛・元副文部科学相(民主党)の、「参院では参考人質疑もするなど慎重に取り組みたい」との談話も紹介している。良識の府とされている参議院が、基本的人権を侵害するおそれのある法案を議論もせずに通すようになったら日本の民主主義もご臨終である。参議院の審議に期待するとともに、ネットユーザーは拙速立法阻止の最後の砦となる民主党の参議院議員に修正案反対の意向を伝えるべきである。