どこの国でも悩ましい移民政策 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

カナダの移民政策は基本的に非常に明快です。世界第二の大きさを誇る国土を保ちながら人口は3400万人とアメリカの約9分の1、日本の約4分の1であり、国土はアメリカ国境沿いに大都市が並ぶものの内陸は山がちで気象条件も厳しく、経済活性化には人口の定常的増加が不可欠です。ちなみにカナダの人口増加率はアメリカと並び0.96%で約70年で人口が二倍弱に増える計算です(日本はマイナス0.07%で先進国でマイナスはほかにドイツとロシアだけです)。


そのカナダも移民政策で揺れています。理由は雇用と移民コストであります。カナダ人から職業を奪うのではないかという懸念と移民者(とその家族)の医療費などの社会保障コストが増大していることが大きな懸念材料になっています。

例えば、BC州で高校卒業証明を取得できるアダルトエデュケーション。1教科1期当たり20ドルの費用でクラスルームに通いながら英語のレベルアップのみならずカナダの高校教育を受けられるということもあり移民の人気急増。そのためBC州の同クラス維持の為の税額コストは1997年には1.5ミリオンドル程度だったものがいまや15ミリオンドルと10倍に膨れ上がっています。

カナダの医療費は原則無料。ところが移民を受け入れれば受け入れるほどその赤字は膨れ上がります。移民の親はスポンサーシッププログラムで移民になれますが、親が移民権を手にするのは5年以上かかるかもしれません。あるコンサルタントがこっそり打ち明けたのは「当局は移民の親は医療費がかかるので積極的に受け入れたくないから移民申請プロセスの優先度を最も下げている」と。

中国人を中心とした移民申請プロセスでskilled workerのカテゴリーの申請はトラブルを起こしています。同カテゴリーの移民を年間2万人に制限したため、カナダ政府は一部の受付済みの申請書類を返却し、申請料も返金しました。とすれば移民で成長したこの国の行方に疑問がわき始めています。特にトロントやバンクーバーのように中華系の多い街で中国系移民の成長が止まったりネガティブなイメージが出来ると不動産を中心に深刻なダメージを引き起こしかねません。

日経新聞には二極化するアメリカ移民政策という記事が出ています。南部では移民を厳しく取り締まる州が出る一方、北部の州では移民優遇策で地域経済の活性化を図ろうとしています。個人的には南部はメキシコからの不法入国者などへのアレルギーがあるのだろうと思います。一方、北部はさほど問題を抱えているわけではありません。

私は厳密な計算根拠があるわけではないのですが、移民と経済効果に関しては経済移民である限りプラスであると見ています。確かに一部の政府支出は多いものの移民は7人に1人が住宅を購入し、さまざまな支出、消費をします。特に経済移民と称する人達には富裕層も多く、私の知っている中国系の移民もカナダで稼がなくても目一杯消費しています。

カナダで受け入れている投資移民。一定額の資産を持ち合わせ更に一定額を投資することでビザがもらえます。その申請は中国系がほとんどとされています。移民した後は子供をカナダにて一流の教育を受けさせゆとりのライフを送ることを金銭で買うわけです。それが数千万円で「買える」としたら安いものだと思う人は少なくないのです。

日本で移民政策を良しとしない根源の一つを私は国籍の「血統主義」に求めています。ちなみに血統主義の国は日本、ドイツ、韓国を含むヨーロッパ諸国に多く見られます。それに対してそこで生まれれば国籍をもらえる「出生地主義」を採用するカナダやアメリカは健全な人口増加率を維持し、健全な人口ピラミッドが保たれやすくなっています。

カナダやアメリカのように移民の国である限りにおいては社会そのものが移民を受け入れていますので将来的な人口政策に基づく経済健全性は保たれやすいと思います。とは言えども移民を受け入れるコストも膨大で政府としては悩ましい判断をしていかねばならぬのが現状のようです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年5月26日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。