アメリカの5月雇用統計は当初予想の15万人プラスに対して僅か69千人増に留まりました。市場がただでさえ弱気だったところへハンマーで叩いたような状況となりダウは今年最大の下げとなりました。注目すべきはアメリカの景気回復が芳しくないという見方からQE3の可能性を再び探る形となり、ドルが弱含んだことから金相場はショート筋の買戻しを含めて3%以上の上昇。クリティカルラインだった1600ドルを超えてきており、来週の金相場の見込みは専門家の9割が強気(kitco)となっています。
さて、雇用統計の解説はメディアでカバーされているのであえてここでは書きませんが、雇用の回復にブレーキがかかってきた可能性が否定できなくなりました。それでもまだ「純増」ですからそこまで心理的にネガティブにならなくてもよいと思いますが、回復基調だった雇用に腰折れが生じないともいえないのでしょうか?
考えられる原因はたくさんあります。ヨーロッパの動きは実態のみならず、心理的にも大きく響きます。中国の5月製造業購買担当者景気指数(PMI)も悪化に転じ、在庫が積みあがっているとされ、こちらもアメリカに当然影響があります。ですが、一番気になりつつあるのがFiscal Cliff(財政の崖)。多分、この言葉は今後、頻繁に出てくると思いますが、要は2012年末でブッシュ減税失効と歳出強制削減を通じた緊縮財政がアメリカ経済を縮み上がらせるというものです。
経済予想を見ると流れとしては2012年第3四半期から第4四半期をピークに2013年は下向きとなっています。これは以前から変わっていませんが、昨今の欧州問題などで全体が更に下押しされている懸念があります。
以前このブログで「カナダ大手銀行が秋頃にカナダは利上げに踏み切るという大胆予想があるけれど私は疑問視している」とコメントしました。理由はカナダの経済指標が一時的にスピード超過でも世界は下向きであればカナダ経済も当然に影響を受ける、と考えていました。ここ数日の同銀行の各種レポートを読む限り表現は大幅にトーンダウンしており、「可能性を否定するものではない」というぐらいまで軟化しています。
この一連の流れで最大の懸念材料は円相場です。アメリカの思惑通りにドルーユーロ戦争はドルが基軸通貨としての支配権維持に有利な展開をしていますが、ここに来てアメリカもへたってきたとなればセーフヘブンは金と円が俄然注目されてしまうのです。気をつけなくてはいけないのは状況が状況だけに極めて急激な円高への動きが加速されないとも限らないということです。
では、噂される日本政府介入で対処できるかといえば私はそんな規模の圧力ではないような気がします。仮に何兆円規模の単独介入をして数円程度円安になったとしても欧州問題は何一つ解決しておらず、アメリカの先行き不安も出てきたとなればすぐに押し返される気がいたします。ではほかに方法はあるかといえば何か大掛かりな仕組みでもあれば別ですが妙案はあるのでしょうか?
アノマリーでは5月が悪くても6月は回復するとは言われていますが、さて、まだ嵐の真っ只中という気がしてなりません。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年6月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。