前回の記事(「人見知りの就職活動(1/2)」では、人見知りは、「自分を良く見せたい、悪く思われたくない」という欲求が原因で起こることを説明しました。
以下では、上記の人見知りの特徴を踏まえつつ、人見知りの人が有する可能性の高い「客観的な分析能力やユニークな視点」といった強みを発揮しやすい環境・条件について具体例を提示します。
なお、前回の記事で、コミュニケーションの対象者を、「ウチ」(親・兄弟、親しい友人)、「ソト」(今後関係が深まっていく可能性のある人)、「ヨソ」(全く無関係な他人)に分けて考え、最も人見知りを発生させるのは「ソト」との交流ということを説明したことも思い出してください。
1.長期的に「ウチ」の仲間と働く
極少数の濃密な「ウチ」に囲まれる状況は、人見知りが最も力を発揮できる環境です。ギャグ漫画家の故赤塚不二夫氏の話を例に挙げてみます。
(ぎこちない挨拶)
赤塚氏は非常に人見知りでシャイな人物だったようです。下記の文章は、出版社の新任の赤塚担当(「ソト」の人)が着任の挨拶に行ったときの様子です。
赤塚は、チラッと僕の顔を見たくらいで、ほとんど目線を送ってこない。顔を伏せたまま、(以下略)。
(武居俊樹「赤塚不二夫のことを書いたのだ!!」文芸春秋社)
この後も、隣のスタッフを通じて新任の担当者と会話をする、照れ隠しに突拍子もないギャグを言うなど、人見知りにありがちな行動をとります。「ソト」とのコミュニケーションは全く得意ではなかったようです。
(神懸かり的なアイデア会議)
しかし、連載漫画のアイデア会議になると、状況は一変します。赤塚氏の漫画制作は独特です。心を許したスタッフ数人(「ウチ」の人)と何時間も楽しく雑談をしながらアイデアをまとめていくというスタイルでした。新任担当者との会話のような不自然さは全くなく、会議では赤塚氏から神懸かり的にギャグのアイデアが次々と出てきます。
ちなみに、新任の担当者とも毎晩のように飲み歩くことで「ウチ」に引き込み、最終的にはアイデア会議の戦力にしています。赤塚氏が意図的にやっていたのかはわかりませんが、時間を掛けて「ソト」の人を積極的に「ウチ」に引き込んでいたわけです。
赤塚氏の例は極端ではありますが、人見知りの一般人でも似たような構造の職場を選ぶことはできます。例えば、長期間、安定的なメンバー構成でプロジェクトに取り組んでいくような仕事です。
間違っても、巨大企業で社員同士の顔が見えづらく、かつ短期間(例えば1~2年)で部署をローテーションするような企業を選んではいけません。全く知り合いのいない場所に頻繁に放り込まれるのは、人見知りが最もパワーを発揮できないパターンです。
2.「ソト」との接触は誰かに任せる
信頼できる「ウチ」の仲間に「ソト」の対応を任せるのも有力な方法です。以下で、田原総一郎氏の話を引用します。田原氏といえば常に堂々と場を仕切っており、人見知りとは無縁のイメージがありますが、実はそうではないようです。
僕は、もともとネクラで、それに口下手なんですよ。だから講演などに行くときは、ほとんど女房に一緒に行ってもらって、講演が始まるまで30分、1時間は女房につないでもらっているわけ(筆者注:講演主催者との会話)。
(田原総一郎「面白い奴ほど仕事人間」青春出版社)
不特定多数の聴衆(「ヨソ」)に対して講演するのは問題ないのに、たった数人の主催者(「ソト」)と会話を続けるのは無理だと言っているわけです(これも人見知りにはありがちなことですね)。だから、思い切って「ソト」との接触は完全に他者に任せてしまう。
このように、コンビやチームで役割分担をして、人見知りにとって苦手な分野を補ってもらうという発想も大切です。例えば、営業でいうと、新規顧客の開拓(「ソト」との接触)は別の人が担当し、人見知りの人は、ある程度「ウチ」になった既存顧客との一層の関係強化や深化をじっくり行うという役割分担の方がうまくいくでしょう。
会社によっては新規顧客の開拓から既存顧客の深堀りまでを一人で担当する場合もありますが、人見知りの人には合わない環境です。
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人見知りの人は、置かれた環境によってパフォーマンスが大きく変わるため、「自分の性格・特性に合った職場を見つける」という姿勢が普通の人以上に大切です。せっかくユニークな視点や客観的な分析能力を持っていても、十分に発揮できない環境では意味がありません。
就職活動では、「具体的にどういう仕事の進め方をする会社なのか」といった細部にも注目してみて下さい。そうすれば、「人見知りなのでやっていけるか心配だ」などという漠然とした不安は自然に消えていくのではないでしょうか。
高橋 正人(@mstakah)