「Xbox: The Making of a Bad-Ass Machine」、「Zynga: From Outcast to $9 Billion Social-Game Powerhouse」の2冊で、どちらも昨年12月に発売になっている。もちろん、世界最大のソーシャルゲーム会社米ジンガの上場の話題に合わせてのリリースだろう。興味深いのが、どちらの書籍も80ページと短くまとめられている点だ。仮に翻訳するとなると、英文の1.5倍ぐらいになると言われるので、新書より少し短いぐらいの分量だろうか。
出版元は、VentureBeatで、06年に立ち上がったIT専門のWebメディアだ。現在は、Takahashi氏は、そこでリードライターをやっている。彼は、アメリカのゲームやマイクロプロセッサ関係に強い系ライターとしては有名な人物だ。
2冊の書籍内容をまとめた「Xbox」本
ゲームでは、2002年に「Opening the Xbox」(邦題「マイクロソフトの蹉跌」)というマイクロソフトがゲーム産業に参入するまでの内幕を描いたドキュメンタリー本で知られている。よくまあ、マイクロソフトも、ここまで社内の内幕がわかるぐらいの関係者の取材を許すなあと、驚かされる内容で、日本ではまず実現が不可能に近い企業密着の書籍だ。ついでに、とんでもないオチがついていて、Xbox事業を立ち上げさせ、この書籍の中心人物のシェーマス・ブラックリーは01年のXboxリリース後に早々に辞めている。その後、マイクロソフトはXboxだけで37億ドルもの赤字を出す。
その後、さらに「The Xbox 360 Uncloaked」(日本語未訳)というXbox360のメイキング本を書いているが、そこまでの取材は認められなかったようだ。ただ、この2冊は、英語圏ではゲーム産業について学ぶには読んだ方が良い推薦図書として上げられることが多い。理由はわからないが、どちらの本も今のところKindle版は出版されていない。
読む前から予想していたが、今回のKindleの「Xbox」本は、2冊のエッセンスをまとめ直している本だった。元々の本は350~400ページもあるため、情報を要約して得るためには、80ページはちょうどいい分量だ。ただ、おもしろかったのは、最後にXboxプロジェクトに関わった人々のその後が付け加えられている点だ。プロジェクトを引っ張った中核の人々は、誰一人として残っておらず、それにもかかわらず、それなりに北米ではXbox360のプロジェクトは成功している。そこに、マイクロソフトの人材の厚さを見ればいいのか判断がつかず考えさせられる。
最近の情報が多く新鮮な「ジンガ」本
もう一冊の「Zynga」本は、VentureBeatで行ってきた取材やインタビューを積み重ねてきた内容をまとめたもののようだ。ニュース的に書かれてきた内容は、なかなか一気に読む機会は多くないため、情報としてまとめられると、知らなかった新鮮な情報も多い。元々ウェブ業界のアントレプレナーだったマーク・ピンカスCEOが、ジンガをスタートさせてから、過去のゲーム業界とまったく違った速度感で動いていたことがよくわかる。
彼は、ゲーム業界の慣習を完全に無視して、「データがすべて」というスタンスで臨んでいた。そのため、既存のゲームデザイナーが求める「直感や職人技」といったものを重視しなかったために、相当、業界内で反発を受けていたという話も、日本と比較しても興味深い。私も会場にいたのだが、2010年のGame Developers Conferenceのアワードの1部門を農場ゲーム「FameVille」が受賞した。その際に会場から、その際にブーイングが起きたのだが、それはそういう反発が背景にある状況だったのかと理解した。
コピー問題にもTakahashi氏は触れていて、自社のゲームのアイデアがコピーされたので、裁判の準備を進めたが、一方で、ピンカス自身が「他社のアイデアをコピーしろ」と社員に命じていたことが、会社を退社した人間によって雑誌に暴露され、騒ぎになった話があったりする。
さらに、アイデアをコピーしたゲームを資金力にモノを言わせて、元のオリジナルのゲーム会社には真似ができないほどの大量の広告を打つことで、ユーザー数で圧倒するといった、まさに仁義なき戦いが繰り広げられている。ちなみに「FameVille」もその手法でオリジナル元に勝っている。
ウェブメディアのフリーミアムの実験本
このTakahashi氏の電子書籍は、実験的な意味が大きいのだろう。どちらも、全文がネットに掲載されており、がんばれば、ブラウザで読めなくはない。とはいえ、全文表示するとげんなりする。80ページの本を丸ごと無料で、ウェブに載せ、とてもウェブで読めないという人向けにKindle版を購入してもらう。典型的なフリーミアムモデルだ。(記事リンクはページトップのリンク)
どちらの本も、Amazon.comではレビューが1件もついていないので、この試みがうまくいったのかどうか、何部ぐらい売れたのかは判断が付かない。コメントや反響は元のウェブ記事についているので、それで成果を見ているということなのだろう。
こうした、新書的なスタイルの電子書籍を見ていると、アメリカのウェブメディアも様々な試みを行っているのだなと感じさせる。日本ではまだまだ難しい電子書籍だが、Kindleの日本への本格進出が始まりディファクトスタンダードがまとまると、日本でも同様の試みが登場してくるのかもしれない。
新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT)
@kiyoshi_shin