迫るマイナス金利の世界 --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

日本は長引く超低金利。定期預金に100万円を1年間預けても家族そろっての外食には厳しいかもしれません。これが普通預金なら1年分の金利でもコンビニ弁当すら買えないかもしれません。日本が低金利になり始めた頃、リタイア層から利息で生活費を賄う予定にしていたのにという恨み節が良く聞こえてきました。

私がカナダに来たころは高金利。8%ぐらいで廻すことが出来ました。当時の友達が持ち家で現金が5000万円あれば一生安泰だと豪語していたのを覚えています。そんなカナダでもいまや定期預金の利息はよくても2%程度でしょうか?昔の友人の金利収入を維持するなら手元に2億円なくてはいけない事になります。

しかし、金利がつくならまだマシ、という言い方も出来る時代がやってくるかもしれません。


今、欧州では国債がマイナス利回り続出状態になっています。特にドイツでは1年物や2年物の国債はマイナス0.05%程度をつけており、マイナスクラブはほかにオーストリア、ベルギー、オランダ、スイス、フィンランドになっています。マイナス利回りとは国債の場合、1年なり2年なりの満期までもつと自分の預けたお金より少ない金額しか戻ってこないことを言います。投資家はそれが分かっていてもその国債を求めるのです。

マイナス金利でも国債を求める理由は何でしょうか?

リスク回避。この一言に尽きると思います。実は欧州でマイナスクラブが急に増えてきているのは理由があります。皆さんが銀行に口座をもって預金するように銀行も余ったお金を預金します。欧州の場合はECB(欧州中央銀行)です。ついこの前までは銀行がECBへ預ける預金には0.25%の金利がついていました。それが、先日、ゼロになってしまったのです。そこで困ったのが資金運用先。結果として、「安全は無料ではない」という発想のもと、優良な金庫探しとなったわけです。その筆頭はドイツ。それが先のような数字となっており、もしかしたら更にマイナス幅が広がるかもしれません。

ではアメリカはというと10年もの国債で1.4%程度でしょうか? 日本は0.75%程度です。何故、欧州のお金がアメリカや日本に入ってこないかといえば入ってこないわけではないのですが、為替というリスクが生じますのでその辺はリスクヘッジが必要になります。また、ユーロ圏内に資金をとどめておくことに大きな意味もあります。

さて、アメリカでも日本でも国債価格はバブルといわれています。日本は今の財政状態なのに何でこんな低金利で国債が存在するのだ、という強い意見はあります。今まで分散投資として不動産、株式、預金という三分割の基本形をとっていたとしましょう。ですが、不動産も株式もいまやとても安心してリターンが得られる代物ではありません。ましては巨額の資金運用をしているような年金基金などは厳しい状況にあるのです。

例えばアメリカの公的年金カルパース(カリフォルニア州公務員退職年金基金)は直近の運用が目標の7~8%レンジに対して僅か1%程度に留まってしまいました。理由は株式運用の大幅なマイナス。こうなってくると「多少の手数料を払ってでも」大きく凹まないほうが良い、という判断すら出てくるのです。

ゴールドマンサックスはこの状況に対して「市場は未知の領域」としています。

一昔前、ハイパーインフレの国ではお金はどんどん使わないと価値がなくなる、といわれていました。私もブラジルがハイパーの頃、サンパウロのレストラン事業部門で店が価格入りメニューを作っていないのに不思議に思っていたら「一日、1、2回価格を改定するから」と教えられビックリした事があります。

今はデフレ、超低金利でお金を銀行に預けると保管料を払う時代です。もっとも欧米の銀行では当たり前で日本も保管料をチャージしたくてしょうがないという話は以前からあります。クレジットカードだってプラチナカードで年1万円ぐらいは管理料を払っていることを考えればそういう時代に一歩一歩、踏み入れているということではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年7月23日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。