ヘッジファンドへの資金流入が続く

藤沢 数希

最近は、世界の金融機関に対してのネガティブなニュースばかりだが、実はヘッジファンド業界は密かに成長している。ヘッジファンドは個人経営の資産運用会社で、不特定多数の投資家から資金を集める(公募)の投資信託などと違い、私募で、規制の対象にならない人数、そして規制で保護が必要でない投資家からしか資金を集めないので、さまざまな報告義務や投資手法に対する規制などが免除される。また、儲けの20%程度を成功報酬として投資家から徴収することも特徴だ。


現在、世界には10,000以上のヘッジファンドがあり、すでに2兆ドル以上の資産を運用している。実は、2011年の第1四半期で、すでに資産運用残高は、リーマンショック以前に戻っており、2012年は世界的に年金基金などがヘッジファンドへの資産配分を高めているので、さらに2兆3000億ドル程度まで増える見込みである。これらは個人経営の資産運用会社なのでまさにピンきりだが、例えば、2011年の上の5つのファンドのトップ「ひとり」の報酬は以下の通りである。

1. レイモンド・ダリオ氏(ブリッジウォーター・アソシエーツ):40億ドル
2. カール・アイカーン氏(アイカーン・キャピタル):25億ドル
3. ジェームズ・シモンズ氏(元ルネサンス・テクノロジーズ):21億ドル
4. ケネス・グリフィン氏(シタデル・インベストメント・グループ):7億ドル
5. スティーブ・コーエン氏(SACキャピタル・アドバイザーズ):5.8億ドル

トップのダリオ氏は、昨年は40億ドル、日本円で3000億円ちょっとを稼いだ。マクロ経済の方向に賭けるのを得意としている。欧州債務危機などを正確に予測し、すばらしいパフォーマンスを出した。アイカーン氏は、日本のかつての村上ファンドのように、投資した会社にいろいろ注文を付けて価値の増加を図るのを得意としている。2011年は大量保有していたモトローラ株を、グーグルに高値で買わせて大儲けした。3位は数学者で、暗号解読技術などを応用して短期売買をしているシモンズ氏で、こういうランキングの常連だ。4位のグリフィン氏は、ハーバードの学生寮でひとりで転換社債アービトラージをやっていたトレーディングのオタクである。5位のコーエン氏は、徹底的な企業分析による株式投資が得意だ。

同年で一番稼いだハリウッド・スターはトム・クルーズの7500万ドルで、約60億円である。ヘッジファンドのトップの年収が、ハリウッド・スターのトップの年収の50倍もあり、金融関係者としては嬉しい限りである。大手証券会社に勤めていれば、これらのヘッジファンドは最重要顧客なので、なんらかの取引をしたことがある人も多いだろう。ちなみに、筆者はこれらのヘッジファンドの幾つかに、ヘッドハンター経由で面接に行ったことがあるが、残念ながら採用されなかった。

筆者は、今後もヘッジファンド業界は成長を続けていくし、そうであるべきだと思っている。リーマンショック、そして世界同時金融危機で判明したことは、世界の大手金融機関が、大きすぎて潰せないという、資本主義経済を根底から覆すような欠陥を抱えていることだった。しかし、ヘッジファンドは、潰れるときにどれひとつとして政府の救済が必要になったものはなかったのである。将来の金融を担う重要なセクターとして、規制・監督当局や研究者から、ヘッジファンドはかなり好意的に見られているようだ。実際に、大手金融機関が担っていたリスクテイクの仕事は、ボルカー・ルールなどで規制し、ヘッジファンドに担わせよう、という世界的な動きになっている。

残念ながら、日本はヘッジファンドに対する法規制や税制の整備が、シンガポールや香港などに大きく遅れていて、現状では、日本人ファンド・マネジャーが日本に投資するヘッジファンドも、シンガポールや香港に設立されている。日本国政府は、アジアのヘッジファンドの拠点を、東京に取り戻すように努力するべきだ。

参考資料
ヘッジファンド ―投資家たちの野望と興亡、セバスチャン・マラビー(著)、三木俊哉(翻訳)
“The 40 Highest-Earning Hedge Fund Managers,” Forbes, March 1, 2012
最大級ファンド創業者「欧州危機、深刻化リスク30%」米ブリッジウォーター・アソシエーツ レイ・ダリオ氏に聞く、日経新聞、2012年4月26日