東電国有化と金融機関の外部不経済

藤沢 数希

政府の原子力損害賠償支援機構は31日、東京電力の第三者割当増資を公的資金1兆円で引き受け、実質国有化した。これは一見、政府が東電を救ったようであるが、実際に救われたのは日本の大手銀行の利益である。日本のメガバンクは、東電に対して数兆円の融資をしている。東電が破綻すれば、当然、これらの債権が焦げ付く。銀行は、そういったリスクを承知で東電に相応の金利を取って金を貸していたのだから、破綻したら、その損失を被るのは本来当然である。


しかし、巨大な金融機関は、破綻すると金融機関の連鎖倒産を引き起こし、社会全体にとって必要不可欠な金融システムが崩壊してしまう。こうしたシステミック・リスクを回避するために、時に政府による救済が行わる。ところが、今回の件では、まったくもってシステミック・リスクの心配は必要なかった。メガバンクは3行で、2012年3月期の1期のみで、合計で2兆円ほどの利益を上げており、東電救済に必要な債権放棄の金額など、わずか1期の利益のみで吸収でき、システミック・リスクを引き起こすには程遠い金額である。これでは、国民が電気代と税金を通して、銀行にお金をあげているようなものだ。

2008年にリーマンブラザースが破綻した際には、世界最大級の保険会社であるAIGが破綻しかかり、アメリカ政府と連銀は850億ドルの緊急融資が必要になった。シンガポール政府と台湾政府の国家予算の合計よりも大きい金額である。これも、AIGが救われたのではなく、AIGからの支払いが契約どおりに行われないと、破綻したはずのその他の多くの金融機関が救済されたのだ。救済されるどころか、金利も合わせて、全部の金が返ってきて利益すら出た。

現在、事実上の財政破綻状態にあるスペインの10年債の利回りは7%を超えている。そして、ECBなどの救済によりスペイン政府は生きながらえている。しかし、スペイン政府に高利でファイナンスしているヨーロッパの金融機関は、こうした暗黙のEUの保証、つまりEU市民の税金により、これほどの金利と元本を守られ、利益を稼いでいるのだ。日本も、IMF(国際通貨基金)、EFSF(欧州金融安定化基金)を通して5兆円ほど拠出している。

外部不経済というと、経済学の教科書では公害問題などを例に説明されている。環境対策をせずに安いコストで生産することが許されれば、会社は儲かっても、社会全体では大きな損失になる。それゆえに政府の規制が必要である。現在、世界は、金融機関の外部不経済に悩まされているように思う。そして、こちらの外部不経済は、公害問題よりもずっと分かりにくい。

こうした暗黙の政府保証は、金融機関のインセンティブやリスク・マネジメントを明らかに歪める。そして、納税者へ、様々な過剰なリスクが転嫁される。資本主義経済は、利益を追い求める組織が、その様々なリスクや負担(外部不経済)を引き受けることによりはじめて成り立つ。倒産コストを社会に転嫁するような、現在の巨大金融機関の存在について、根本的に見なおさないといけないだろう。