マイナンバー法の真実(第1回) --- 八木 晃二

アゴラ編集部

法案の内容と検討の現状

2012年2月「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用などに関する法律案」(通称マイナンバー法案)が閣議決定され、国会に提出された。以降、国会の場において一度も正式な審議は実施されないままであったが、増税法案をめぐって民自公の三党合意がなされた今、社会保障と税の一体改革に必要不可欠との理由で、政府民主党はこの法案の成立を急いでいる。報道によれば、水面下での三党の調整が進行している模様であり、このままでは、国会という公の場においてたいした議論もされることなく、簡単に成立してしまうことが懸念される。


この法案の目的は、国民一人ひとりに「番号」を付与し、納税や社会保障給付申請等の際に記載させることで、個人・世帯の納税・給付に関する情報をこの「番号」を元に名寄せできるようにし、政府が各国民の負担と給付の金額を正確に把握できるようにすることにあるとされている。これにより、脱税や社会保障の不正受給等を防ぎ、社会保障・税の一体改革の大前提である、国民の公平な負担と給付、透明性の確保を実現するとしている。

しかしながら、法案に直接記述されていないが、これまで「マイナンバー制度」として検討されてきた内容を検証してみると、いくつかの大きな課題を抱えたまま船出をしようとしているようだ。さらに、様々な省庁の利権、経済界の利権、等々が複雑にからみあう結果、国民目線から大きく逸脱してしまった制度になりかねない。

また、マスコミ等では、主にプライバシーに関する懸念が指摘されているが、本質的な理解と議論が不十分であるため、国民の不安を煽りこそすれ、有効な解決策を提示するに至らず、制度を正しい方向に持って行く力となり得ていない。

このままでは、問題点を曖昧に残したまま制度化・システム化が進行し、現在予定されている2015年に完成したあかつきには、こんなはずではなかったということになりかねない。危機的な国家財政の中、税金の無駄遣いや制度設計の間違えはもう許されないはずであるが、そこに危機感を感じることができない。

そこで浮き彫りになるのが、マイナンバー制度にとどまらない、政府のITガバナンスの欠如である。政府は、政府CIOの設置を検討していると報道されているが、ポストを設けるだけでは、問題の解決にはならず、人選を誤れば、更に悪い結果を招く恐れすらある。

今回を含め、全3回(編集部注:2012年8月4日、5日、6日)にわたり、問題点を整理し、それに対する解決策を提案していく。

八木 晃二
(株)野村総合研究所 DIソリューション事業部長 
(一般社団法人)OpenID ファウンデーションジャパン 代表理事