政治家の皆さん、「ばらまく」ならiPadはどうですか?

高橋 正人

民主党のばらまきは見事だった。エコカー補助金の漫然とした継続など、大盤振る舞いの印象が強い政権だった(過去形でごめんなさい)。もう、ばらまきは勘弁してくれ。賢明な国民はそう思っている。

しかし、次に待っているのも元祖ばらまき王の自民党である。元祖の名に恥じぬよう、10年間で200兆円の公共事業をやるらしい。「ばらまきだらけの水泳大会!~谷垣総裁のポロリもあるよ~」をお楽しみ下さい、ってことなのだろう(冗談ではなく、これくらい国民は馬鹿にされていると思う)。


もう少しまともな「ばらまき」はないのだろうか。

1.麻薬型のばらまき
エコカー補助金などは需要を一時的に引き上げる効果しかない。業界にとっては麻薬である。クスリが効いている間は気持ちいい。短期的には業績が改善する(改善したように見える)。

しかし、麻薬はその場しのぎの快楽しかもたらさない。需要の水準を長期的・継続的に引き上げるわけではないのだ。未来の需要を先食いしているだけなので、クスリを打つのをやめると、反動で需要が大きく落ちる。やがて、需要はクスリを打つ前の水準に戻ってしまう。

自動車業界は、エコカー減税・補助金でクスリの味を知ってしまった。今後は、環境の変化があるたびに減税や補助金を要求してくる可能性が高い。本質的な改革を避けてクスリに頼れば、体がぼろぼろになっていく。

政府のばらまきは日本の稼ぎ頭を薬物中毒にしたのかもしれない。

2.需要創出型の「ばらまき」
既存の需要を先食いするのではなく、潜在的な需要を掘り起こす「ばらまき」はないのだろうか。

例えば、高齢者にiPadを配布するのはどうか。

もちろん、他社のタブレットでも構わない。インターネットに接続しやすい環境を整えるのが目的である。高齢者のインターネット利用率はまだ伸びる余地がある。総務省の調査によれば、インターネット利用率は70歳代:43%、80歳以上:14%である(全体は80%)。

インターネットの利便性を知らない高齢者は、消費意欲を抑え込んでいる可能性がある。言い換えれば、消費をあきらめている高齢者である。例えば、体力的に長時間の外出が難しく、趣味や娯楽の買い物を断念している高齢者は多いはずだ。Amazonなら昔懐かしの本がすぐに買える。好きな映画も外出せずに自宅で見られる。

新聞を電子版で見れば、重い新聞紙の束をゴミに出す心配をしなくてよい。孫へのプレゼントも悩まなくてよい。Facebookで「**が欲しい」と孫が書いていたら、それを買ってあげればよい。

このように、iPadを配布することで隠されていた高齢者の消費意欲を引き出せる可能性がある。一時的な需要増加ではなく、高齢者消費の水準自体を引き上げられる。何に消費するかは個々の高齢者が考えることなので、特定製品への消費喚起策(エコカー補助金など)のように需要を歪ませる懸念もない。

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陳情してきた業界に金をばらまくだけなら誰でもできる。そんなことは政府に求めていない。

「一時的ではなく、持続的な消費や投資を生み出すきっかけになるか」という視点をもった政策検討を期待したい。求められているのは、高齢者のインターネット利用率の向上など、需要創出型のインフラ整備である。

高橋正人(@mstakah