2012年8月3日、ACTA(Anti-Counterfeiting Trade Agreement / 模倣品・海賊版拡散防止条約、日本語条文はこちら)を批准することが参議院で可決されました。この条約は表現の自由の侵害を引き起こす極めて危険な取り決めであるにも関わらず、マスメディアが取り上げずに放置されています。そこで、この場を借りてACTAの危険性について簡単に紹介します。
そもそもACTAは中国の違法な模倣品を取り締まる目的で、2003年小泉政権下で審議が始まりました。審議は公開されず不透明であったため、当初は問題になりませんでしたが、WikiLeaksがACTAの全貌を明らかにしたことで、議論が沸騰しました。特に、著作権法に抵触するWebSiteは閉鎖されること、
ISP(Internet Service Provider)によるユーザー監視が義務化される件については多くの批判があります。我々が日常的に使っているFacebook、Twitter、mixi、Myspace、2ch、Tumblr、YouTube、ニコニコ動画などの画像・音楽コンテンツが多くあるサイトは閉鎖されるとされています。こういったサイトが閉鎖されるとなると、多くの情報が遮断され、同時に表現の場も失うわけですから、これは明らかな表現の自由の侵害となります。また、ジェネリック医薬品も規制される形になるため、途上国医療にも甚大な影響が生じます。
ACTAには既に日本、韓国、アメリカ、EU(22ヶ国)、カナダ、オーストラリア、モロッコ、ニュージーランド、シンガポールの31カ国が署名しています。※施行には6カ国の批准が必要。しかし、ACTAによって表現の自由が侵害されるという懸念が広まり、ヨーロッパでは数百万人規模の反対運動に発展し、7月3日には欧州議会が条約の秘訣を圧倒的多数で否決しました(記事)。肝心の中国はこれに署名すらしていないにも関わらず、条約の施行に向けて世界は動いているのです。
確かに、著作権侵害は厳しく取り締まるべきものではありますが、ACTAの場合にはあまりにも厳しすぎ、本来の目的を見失い、副作用が甚大過ぎるのです。日本がACTAを提案した背景には年次改革要望書によるアメリカの圧力が働いていたことが既に判明していますが、これはTPPや原発と似た構造を持つ、日本の弱さを同時に露呈してもいるのです。日本を使うことによって、国際的なネット監視を正当化しようとするアメリカの策略なのです。
著作権の問題はTPPにもあります。これまでは著作権侵害が発生した場合、著作権者が訴える形であったものが、TPPが施行されると、国家が訴える形になるため権力の濫用が起こる可能性があります(非親告罪化)。つまり、国家にとって都合の悪い情報を流すサイトを著作権侵害で提訴することで、サイトを閉鎖することが可能になるのです。つまりネット上で別件逮捕が容易にできるようになるのです。また、著作権保護期間が延長されるため、なかなか著作物を自由に使用できないという問題もあります。
しかし、国内外の大手メディアはこれを大々的に報道せず、放置したままの状態にあります。ACTAを作り上げた日本のマスメディアさえもほとんど報道をしないため、多くの人々がこの危機について知らない状態にあります。しかし、そんな中でも抗議活動・署名運動を行なっている人々はいます。「Anti ACTA Japan」がこの運動の中心となっていて、7月31日現在で56,365名の署名を集めることに成功しています。現在は世間の関心が低いためにこの数字に留まっていますが、周知を徹底すれば、数十万人規模の運動にすることは難しくはないでしょう。
海外での抗議活動は日本よりはるかに盛んです。現在、ヨーロッパではあらゆる権利の自由化を求める海賊党(Pirate Party)が支持者を増やしています(動画)。海賊党は2006年にスウェーデンで設立され、ドイツ・フランス・イギリス・スペイン・カナダなど40ヶ国に広がっています。ドイツで4月に行われた世論調査によると支持率は3位にまでなっています。ネットを中心にして広まったこうした自由化の動きはもう世界中に広まっており、ネット規制・監視の動きに対して鈍いのは日本だけです。もちろんマスメディアが報道しないことにも責任はありますが、今後は市民が主体的に情報を送受信し自衛策を練る必要性に迫られています。