放射能についての5つの神話

池田 信夫

放射線のリスクについての議論が盛り上がってきたが、まだまだ世の中には非科学的な神話が流布しているようだ。

神話1.どんな微量の放射線でも危険だ

これは小出裕章氏の「原発は無限に危険だ」という被害妄想のもとになっているLNT仮説だが、世界の自然放射線は平均2.4mSv/年なので、これが本当なら人類はとっくに絶滅している。低線量被曝のリスクについては、きのうの記事の第4図のように、年間6mSv以上の線量をずっと浴びている地域の発癌死亡率がむしろ他の地域より低い。これは低線量被曝が健康を改善するホルミシス効果と考えられる。


さらに高い線量については、アリソン教授のあげている時計職人のデータで見ると、3.7MBqあたりに閾値があると思われる(図の赤い範囲が骨肉腫を発症した線量)。これは年間被曝量に換算すると1300mSvで、年間1050mSvでもDNA異常は増えないという実験結果とあわせ考えると、年間線量の閾値は1050~1300mSvの範囲にあると推定できる。


神話2.内部被曝は外部被曝より危険だ

これは河野太郎氏でさえ否定しているナンセンスな話だ。預託実効線量は内部被曝による累積線量を合計した数値で、人体への影響も基準化されているので、Svの値が同じなら人体への影響は同じである。きのう発表された福島県民健康管理調査によれば、福島県民の外部被曝の98%は2mSv未満、また内部被曝調査によれば、預託実効線量は99%以上が1%未満で、いずれも健康にはまったく影響はない。

神話3.原発はもっとも危険なエネルギー源である

これはマスコミが騒ぐことによる錯覚である。きのうの記事で紹介したWHOやEU委員会の統計でも、図のように石炭や石油のほうがはるかに多くの人命を奪う。大気汚染や温室効果ガスなどの影響を勘案すると、原発の環境負荷はもっとも小さい。火力発電所が廃棄物を大気中に放出するのに対して、原発は廃棄物を密閉しているからだ。福島事故のように誤って大気中に出た場合でも、その量は石炭火力の1日分にも満たない。


神話4.原発事故は不可逆的で壊滅的な被害をもたらす

これは大阪市のエネルギー戦略会議で、原発の再稼働について橋下市長が「食品や事故などのリスクヘッジは社会的リスクの範囲でやろうとしているが、原発にだけ絶対的安全性を求められるのか」と問いかけたのに対して、飯田哲也氏と古賀茂明氏が主張した政治的プロパガンダだが、橋下氏のほうが正しい。

原発事故は不可逆でも壊滅的でもなく、2万人も死者が出た震災の中ではマイナーな災害だ。歴史上最悪の原発事故であるチェルノブイリでも、国連科学委員会の調査によれば、事故後25年で確認された死者は(消防の作業員など)60人前後に過ぎない。福島では癌は増えないというのが、放射線医学の専門家の一致した意見である。

神話5.放射能で広範囲の国土が汚染され、多大な経済的被害が生じる

これは過剰規制による風評被害である。前述のように1000mSv/年でも健康被害は出ていないが、線量には測定誤差が大きいので安全率を見込むと、多くの専門家の推奨するように100mSvを基準にすることが妥当だろう(ICRPも緊急被曝状況では上限を100mSvに設定している)。文科省のモニタリング情報によれば、空間線量は福島県のほとんどの地点で100mSv/年(11μSv/時)以下なので、除染しなくても帰宅できる。

昨年の事故の直後に「メルトダウン」の意味も知らない自称ジャーナリストが誇大に騒ぎ、それにあおられて多くの人々がパニックになったのはやむをえない。しかしもう事故から17ヶ月以上たったのだから、頭を冷やして放射能のリスクを冷静に考え直してはどうだろうか。この点で「今さら引っ込みがつかない」などといって前言を撤回しない人に比べて、率直に方針転換する橋下氏の柔軟さは立派なものだ。