マーク・ザッカーバーグの鈍感ぶりに期待

僕は以前、起業家には強気あるいは”大人の論理”の論理を無視する一種の鈍感さが必要、それが重要な資質だ、と書きました。いま、世界最強のインターネットベンチャーの一つ、Facebookの創業者兼CEOのマーク・ザッカーバーグは、まさしくその資質を試されています。

Facebookの株価は上場来の安値を更新し続けており、8月16日の時点では一時的とはいえ公開価格である$38の半分近くまで下落しました。これは、Facebookの初期の投資家の株式売却のロックアップ時期が終了し、彼らが利益確定のために相当数の株式を売り出したためと言われています。今年10月から来年5月にかけて社員の持ち株の売却も許可されることになるので、断続的に株価を押し下げるマイナス要因が存在することになり、それがさらなる気分的な下げ基調を作っているわけです。


ある程度成長して企業価値があがると投資家が群がり、”大人の論理”が入り込む。そしてある程度の企業規模になると、起業家は追い出されたり経営の前線から外されてしまうという悲劇がよく起こります。起業家にとって会社を興すのは金儲けのためだけではなく、社会を変える試みを自分自身で実行したいからです、だから起業家は創業者(ファウンダー)としての地位だけではなく、自身がCEOでいたいと願う。それが”起業家の気分”です。

以前に書いた通り、”起業家の気分”を維持するには相当頑固さが必要であり、その頑固さを周囲に染み渡らせることも必要になります。マーク・ザッカーバーグは上場当時、儲けるためにサービスを作るのではなく、世界を変えるサービスを作るために儲ける、と言い切りました。マークは上場後も会社の方向を決めていくための議決権を51%以上保持しているので、真っ向勝負すれば自分の意志を通し続けることが可能ですが、株式市場からの強いプレッシャーに耐え続け、短期的な株価維持のためにユーザーの利便性を無視して、単純に収益構造の改善に手を付ければ、それはドーピングに手を染めるのと等しく、ソーシャルネットワークサービスとしての健全性を失うことになりかねません。

FacebookはPCにおいてもモバイルにおいても、十分なユーザーの支持を受け、巨大なトラフィックを維持しています。成長性に鈍化傾向があるのは先進国にはだいたい行き渡ったからであり、あとは中国を中心としたFacebook未開国への進出をどう図っていくか、です。トラフィックエンジンとしてはGoogleをも凌ぐ、世界最強の座を手に入れているわけです。

しかしモバイル上ではそのトラフィックをうまく換金できる広告手法がまだない。マネタイズエンジンに不備があるわけです。モバイルの小さな画面で上手に広告を見せることは非常に難しい。ユーザーの注意を引けば、それだけコンテンツを読む邪魔になるからです。ユーザーの邪魔にならず、広告を差し込む新しい手法をどう作っていくか、マークはその一点に集中するべきですが、とはいってもマネタイズエンジンをあまりに強力に作りすぎると肝心のトラフィックエンジンを損ないかねない。バランスが大事です。

現在の市場圧力は、あまりにもマネタイズエンジンの強化を叫びすぎていて、その行為がトラフィックエンジンを傷つける可能性があることを忘れています。マークは起業家の気分を押し通し、長期的な成長を果たしつつ、Facebookの本質を見失うことなくバランスのとれたマネタイズエンジンの発見に成功してもらいたいものです。

He is CEO, bitch!

小川浩@ogawakazuhiro