英国の自転車がお手本を示す

鈴木 和夫

ガソリンをがぶ飲みする車に対抗して、今、ちょっとおしゃれなく高級自転車が売れています。イギリスのブロンプトン自転車(ブロンプトン・バイシクル)は、1970年代にアンドリュー・リッチーが考案した折りたたみ自転車です。日本では自転車好きにしか知られていないのではないでしょうか。同社の説明によると日本、韓国で売れているそうです。
 


ヨーロッパは不振ですが、アジアで盛り返しています。その経営姿勢は、頑固職人です。けっしてOEM(相手先ブランドによる海外受注生産)をやりません。経営陣はあくまで英国製にこだわります。

この自転車の購入者の半数は女性で、おしゃれなつくりを意識しています。自転車デザイナーの求人では、4年間もかけて、ようやく優秀な女性を見つけ、雇い入れています。こだわりの求人ですね。

働く人もかなり技術レベルが高く日本の自動車や機械メーカーなどの熟練工の域に達しています。とくに、仕上がりの巧拙が際立つ、溶接工はとりわけ技をきわめています。

この自転車は英国女王からも表彰され、「The Brompton」と親しまれています。産業革命以来の伝統を引き継いだ、ものづくり企業の代表といえるでしょう。その自転車は、使い勝手の良さとコンパクトに収容できる折りたたみ性能を特徴とします。走行性能と折りたたみ技術を高いレベルで作り上げた、折りたたみ自転車の傑作といえるでしょう。
1975年創業でけっして古くはないでしょう。第1号の折りたたみ自転車の重量は15キログラムでやや重めです。そして、現在は9キログラム以下に押さえ持ち運びに便利です。 海外生産は人件費、金利、税金で有利かもしれないが、品質をマネージメントできないからやらないのです。最終的にそれをやれば、顧客から信頼を失うからだそうです。1200の国内生産のパーツを1台6時間で組み立てる作業の連続なのです。年間3万台、1日約100台の生産ペースを頑固に守っています。

こうしてみると、これまでの日本の自転車メーカーがたどるべき道筋を示していたのではないでしょうか。

日本の自転車は1970年代までは国内生産が圧倒的に強かったのですが、中国、台湾などの安売り攻勢に完全に負け、現在は年間1000万台以上が国内で売れていますが、その9割以上を輸入に頼る自転車輸入国になり下がっています。

ブリヂストン、ナショナル(パナソニック)、そのほか、丸石、ツノダ、アラヤ、思い起こせば、戦前から綺羅星のごとく輝いた日本の自転車メーカーは、中国からの安売り自転車に負け、車椅子メーカーに転じたり、電気自転車にようやく活路を見出したり、プライドをかなぐり捨て、海外生産などでしのぐ青色吐息の状態となっています。

学ぶべき点が多い経営姿勢

実は、こうした頑固さと、技術を守る姿勢は、Bromptonに学ぶべき点が多いことがわかります。実は1980年代にこの経営姿勢を貫いていれば、とりわけ1990年代後半以降のもしかしたら、日本の自転車産業の凋落ぶりは、見なくてもよかったかもしれません。

日本の自転車メーカーは、国内のバブルに酔い国内だけに注力し、あわてて海外の欧米へ輸出し始めましたが、いずれも惨敗しているといえるでしょう。そしてどうしたか。電気自転車です。そ れも、OEMでお茶を濁すような取り組みです。

Folding bikeの代表である台湾のKHS、アメリカのDAHONなど世界的なFolding bikeメーカーは、いずれも1970、80年の創業で不思議なめぐり合わせです。その歴史は約40年で浅いと言えます。この中に日本メーカーがないのはいかにもさびしい。見習うべき英国流の経営だと思いませんか。

整理してみるとこうなります。

1.けっしてOEM生産はしない頑固な経営
2.国内熟練工による最高水準の製品
3.自前のデザイナーによるこだわり (4年間探し続け女性デザイナーを雇用)
4.大量生産しない こだわりの限定生産、年間3万台(休みを考慮すると1日100台の生産ペース)

●輸入台数上位5カ国
~自転車輸入統計~
順位 国名 輸入台数(台) 平均単価(円)
1 中国 869万台  7800円
2 台湾 31万台  2万800円
3 アメリカ 7221台  10万3800円
4 ベトナム 6181台 8800円
5 英国 2301台 6万4800円

熟練工が組み立てていますね。英国流の組み立て

鈴木 和夫