「親日派」は悪の代名詞

池田 信夫

大韓民国の物語韓国政府が野田首相からの親書を返送するという「ありえない」行動に及び、さすがに首相も頭に来たようだが、竹島や慰安婦の問題はきっかけに過ぎない。韓国の日本に対するルサンチマンは根深く、「親日派」は悪の代名詞である。これは今に始まったことではなく、本書によれば終戦直後から始まっていた。「日帝36年」の植民地支配によって朝鮮人は深い傷を負い、それが日本人より優秀な彼らが日本に追いつけない原因だ――という意識は今も強い。


本書はこうした「国史」教科書のバイアスを是正しようと、ソウル大学の歴史学者が書いたものだ。教科書によれば、朝鮮総督府は40%の土地を接収し、生産された米の半分を収奪したことになっているが、これは嘘である。総督府は基本的に朝鮮人の土地所有権を確認し、国有地は全国の土地の3%程度だった。米の半分が日本に輸出されたことは事実だが、それは日本の米価が朝鮮より30%ぐらい高かったからで、代金は朝鮮の農民の所得になったのだ。

親日派を攻撃して民族感情を刺激し、政治的な支持を得ようという宣伝は、終戦直後にスターリンの指令で北朝鮮が行なった戦術だった。貧しさの責任は自分ではなく富を強奪した日本にあり、朝鮮がいつまでも立ち直れないのは日本と結託した親日派のせいだ、という説明は多くの朝鮮人に受け入れやすいため、李承晩など南の軍事政権もその不安定な基盤を支えるために反日宣伝を利用した。

こうした反日感情によって、親日的な言動を禁止する多くの法律が制定された。2004年になっても植民地時代の親日的な行動に刑事罰を課す親日反民族特別法が成立し、戦時中に遡及して親日派を摘発することになった。反日教育も徹底して行なわれ、初代韓国統監だった伊藤博文を暗殺した安重根を国民的英雄とし、1919年の三・一事件を英雄的な独立運動として賞賛し、独立の英雄を虐殺した日本軍の非道さを教えている。

ソウルの南にある「独立記念館」では、こういう日帝の悪行を毒々しい蝋人形で展示してあり、韓国の小学生は必ず遠足で行く。実際に植民地時代を経験した60代以上の韓国人は日本語もわかり、日本人に悪い感情はもっていないのだが、こうした反日教育を受けた戦後世代のほうが反日感情は強い。

著者はこうした「朝鮮の近現代史を汚辱の歴史として描くゆがんだ教育」を是正し、未来をになう世代を「死者から解放」するよう説いているが、慰安婦については微妙な表現をしている。彼はかつて「慰安婦は公娼だった」と発言して辞職を要求され、元慰安婦に謝罪した。このため本書では「日本軍が強制連行した証拠はないが人道的な責任はある」という曖昧な書き方になっている。へたな表現をすると、親日反民族特別法で摘発されるからだろう。

このように韓国人の反日感情は根深く、それを修復することは容易ではない。これほど深い怨念を植えつけた日本も罪深いが、いまだに反日感情をコントロールできない韓国人は精神的幼児といわざるをえない。ただ今回の李明博大統領の常軌を逸した行動は、実兄や側近が逮捕されて政治的に追い込まれた彼の政治的スタンドプレーという見方も強い。彼らと対等に喧嘩するのではなく、ていねいに歴史的事実を教育していくしかないだろう。