原発は無限に危険なのか

池田 信夫

どんなリスクも無限大ということはありえないが、世の中には「原発は無限に危険だから、どんなコストがかかってもゼロにしろ」と主張するデマゴーグがいる。きのうのニコ生で飯田哲也氏がそう主張したのは当然だが、経済学者の植田和弘氏まで「原発はリスクが大きすぎてわからないので保険がかけられない」と言ったのには驚いた。


まず基本的な事実関係だが、日本の原発のうち、福島第一以外の原発には保険がかけられている。福島第一については廃炉などの費用がわからないため、日本の保険会社は引き受けないが、外資は引き受けると言っている。文部科学省が認可しないため、福島第一はいま無保険状態だが、これは料率の問題にすぎない。

当たり前のことだが、リスクの大きさがわからないということは無限に大きいことを意味するわけではない。以前の記事でも書いたように、OECD諸国では死亡事故は起こっていないので、原発事故はリスク管理できない「ブラック・スワン」ではなく通常の経済問題である。これは保険でカバーでき、欧米では国家が最終的な保険を負担している。

しかし日本の電力会社は、原発を新規に建設する気はない。それは政府が事故のリスクを負担しないことがわかったからだ。日本の原子力損害賠償法でも1200億円以上の損害賠償は政府が支払うことが想定されていたが、財務省は福島第一に原賠法第3条の「異常に巨大な天災地変」という但し書きを適用しなかったため、リスクの上限がカットできなくなった。竹森俊平氏もいうように、これが今回の事故処理の混乱の原因だ。

本当の問題は、なぜ健康被害ゼロの事故に5兆円も賠償が発生するのかということだ。この点は専門家でもしばしば混同しているが、福島第一の被災者が600人以上も死亡したのは政府の過剰な避難誘導が原因だ。農畜産物についても健康に影響のある放射能は検出されていないので、すべて風評被害である。つまり福島第一の被害のほとんどは、放射能と無関係な2次災害なのだ。

ところが内閣府の東電財務調査委員会は、賠償額を2年間で4兆5000億円と算定し、そのうち農産物の賠償を9000億円とした。これは毎年2400億円しか農産物を出荷していない福島県の賠償としては過大である。買い控えが行なわれたことは事実だが、それをすべて自己申告で補償の対象にすると、農家は安全な作物もすべて廃棄して補償金を要求するインセンティブをもち、莫大な農産物が浪費されている。

諸悪の根源は、放射能は無限に危険だと思い込んでμSvの放射線に大騒ぎするマスコミと、それに影響されて右往左往する民主党政権である。巨額の風評被害が出るのは、政府がリスク情報をきちんと管理しないため、「1mSv以上は危険だ」というデマが流れているからだ。賠償も除染も科学的根拠にもとづいて行なわないと、無駄な国民負担がふくらみ、16万人の被災者はいつまでも帰宅できない。