故あって世界のバイオとエネルギー、環境分野のベンチャー企業の動向を常時ウォッチングしている。インターネットでその会社のホームページや検索で出てくる関連記事を見ているわけだが、最近面白いエネルギー製品を作っている会社に出くわした。
2009年創立のその名もBioLite社である。同社の問題意識と解決法がホームページに簡潔にまとめられているのを引用しよう。
問題:木をオープンファイヤー(たき火と一応訳しておこう)で燃やすのは不完全燃焼のため、効率が悪く利用可能なエネルギーを無駄にし、また毒性の煙を生ずる。
世界で30億人以上がたき火で料理を行っている。
そのうち13億人は電気の使用ができない環境にいる。
たき火による料理で毎年10億トンの二酸化炭素を大気中に放出している。
屋内の非効率な料理のための火の使用によって、毎年200万人が死んでいる。これはマラリヤによる死亡の倍以上である。
毎日燃料を探すのに長い時間をとられている。解決法:温度差を電気に変換する熱発電モジュールを内蔵し、火を効率よく燃やすために風を送るファンを駆動することによってこの問題を解決した。
一酸化炭素の生成を91%削減。
煙の発生を94%削減。
燃料(木など)の必要量を50%削減。
すすの発生はほとんどゼロ。
余剰電気はLEDによる照明や携帯電話の充電に使用できる。
BioLite社はその製品、HomeStove、を電気もなく燃料とする木々さえ乏しい開発途上国へ届けたいと願っているようだ。もちろん電気といってもせいぜい数ボルトの電圧で出力は10ワット位のものだから、用途は知れている。しかし燃料としての木の消費を半減でき、屋内での料理を安全に行えるという手段を手に入れることは大きな前進であるに違いない。
この製品は、サブサハラアフリカとインドで大規模のパイロットプログラムがスタートしたばかりで、まだ一般には販売されていない。しかし同じ原理で小型化したアウトドア用のストーブは日本でも輸入販売されている。やや重いし高価なので手軽なLPGを燃やすバーナーと伍してやっていけるのかどうかわからないが、BioLite社のホームページには、こちらの売り上げの収益がHomeStoveのマーケットを確立するコストをサポートするといっており、「その志やよし」と感心すると同時に目論見通り行けばいいことを願っている。
調べているうちに日本でも同じような製品が開発されて、同じようなマーケット(アウトドア用途および開発途上国向け)に対してアプローチしている会社があることがわかった。独立行政法人産業技術総合研究所の技術移転ベンチャーとして2010年に創立された株式会社TESニューエナジーである。しかしこちらの製品は木を有効に燃やすというよりは発電に重きを置いているようで、携帯電話やパソコンの電源をとるだけのためにわざわざこの製品を買う人がいるかと思う。
たき火といえば、1997年の豊能町ダイオキシン騒動以降専門の施設以外でのゴミの焼却は危険とされた。落ち葉や雑草などの露地焼きさえも現在では原則として禁止されて、枯れ木や落ち葉などは焼却するのではなく自治体のごみ収集に出される。科学的なベースのない虚の情報やそれに基づく風評で住民だけでなく自治体までもが浮足立ち、環境庁もろくな働きをせぬまま国全体として高価なごみ焼却設備の建設に無駄な投資を重ねてきた。煽ったジャーナリズムが口を閉ざしているために反省がないまま、無用な規制と無駄な投資は今後も続くことだろう。まともな科学者は誰もダイオキシン騒動のもとになった「ダイオキシン問題」は信じていない。
同じことが原発騒動でも起きている。原発ゼロといったとたんに、その分野で貢献しようという若者はいなくなる。技術が新たに開発されないばかりか、継承もされず、ただ消えていくのみだ。そしてある日、たとえば今なぜか急に話題になりつつある富士山の噴火爆発によって、火力発電所は操業停止に追い込まれ、(その頃にはかなりの電力をまかなっているはずの)太陽光発電は噴煙によって光が届かず、発電量ゼロといった日が長期にわたり続くかもしれない。
そんな時に、我々は仕方なくHomeStoveを取り出し、身の回りに山ほどあるごみをダイオキシンなど気にもせず燃やして食べ物をこしらえ、ついでに携帯電話を充電してお互いの身の不幸を語り合うのだろうか。
山中 淑雄
某シンクタンク特別研究員(非常勤)