ドラクエ:ダイス賭博における本当のリスク --- 木曽 崇

アゴラ編集部

前回の投稿にて、ドラクエダイス賭博論議における「最大の焦点は、ゲーム内通貨が刑法185条の賭博罪の禁止する『偶然の勝敗によって、財物・財産上の利益の得喪を2人以上の者が争う行為』にあたるかどうかにあります」と述べました。本日は、その続きです。

これに対する抗弁側の論は、大きく以下の二つが予想されます。

1)ゲーム内通貨、アイテムは、あくまでプレイヤにゲーム内データの利用権を付するものであって、所有物ではない

これはオンラインゲーム業界内の全く別所で行なわれ続けてきた古くて新しい論議ですが、ゲーム業界は少なくともこの「利用権」の理論を守り続けております。

【参照】ソーシャルの実相 やっとゲットしたレアカードに、所有権が存在しないという真実
http://d.hatena.ne.jp/tenten99/20120305/1330960987

但し、少なくとも賭博行為の構成要件においては、それが利用権であろうが所有権であろうが、実はその違いは殆ど意味をなしません。法文に示されておるとおり、その権利の授受が「財物・財産上の利益の得喪」にあたる限りは、どちらでも賭博の誹りを逃れることは出来ないわけです。

2)ゲーム規約上、デジタルアイテムの金銭取引(RMT)は禁止されている

となると結局、争点はゲーム規約上のRMT禁止規定、すなわち金銭取引の認められていない「権利」に対する財産上の価値をどのように評価するかという点に収束するわけです。ここに関しては、未だ法的には決着の付いていない未知のゾーンであり、賭博業の専門家たる私自身も、未だに答えを出し切れていないのは前回の投稿で述べた通りでありますが、実は一つ興味深い判例が存在しております。

AKB握手券偽造で有罪 東京地裁「財産価値ある」
http://www.47news.jp/CN/201008/CN2010082501000670.html

上記は昨年行なわれた人気アイドルグループAKB48の握手券偽造に関する東京地裁判決に関する報道。検察側が握手券には財産上の権利が表章されており、「それを偽造した行為」に刑法上の有価証券偽造罪及び偽造有価証券交付罪を求刑したのに対して、被告人及び弁護人は「握手券には財産上の権利はない」と反論したものです。この事案の背景には、商法と刑法における「財産上の権利」の捉え方の違いが如実に反映されているのですが、その辺のヤヤコシイ事情はさておき、本件では検察側の主張が認められ同被告に「有価証券偽造罪及び偽造有価証券交付罪」が適用される形で決裁したわけであります。

上記AKB事案と、デジタルデータ利用権に対する「財産上の価値」判断の共通性は以下の点にあります。

・ 権利自体は他の商行為に付随して発生したものであり(握手券の場合はCD販売、ゲームアイテムの場合はプレイ課金)、そもそもの権利発生自体は商行為の範疇に含まれていないこと。
・ 権利を付与した母体(AKBならばマネジメント会社、ゲームならばゲーム会社)は、その権利の第三者譲渡・転売を禁じていること。
・ しかし、ネットオークション上では金銭による売買行為が歴然として行なわれており、非公式なものでありながらも財産上の価値を形成している事実が存在すること。

結局、AKB握手券偽造の地裁判決では、ネットオークションでAKB握手券が実際に取引されていることを重視し、AKB握手券に「財産上の価値があるのは明らか」としたワケですが、この判決はデジタルデータの「財産上の価値」判断に対して一つの参考となるものであり、同時にその解釈の如何によってはドラクエのみならずオンライン上で行なわれている様々なバーチャル賭博行為の法的判断に影響を与えるものであります。勿論、本AKB事案はあくまで地裁判決であり(その後、控訴はされていない)、また事案内容自体も微妙に異なることから、未だ様々な論議が行なわれるべきものであります。しかし、私がドラクエでのダイス賭博に関して「リスクの存在を否定できない」と唱え続けている理由の一端はご理解頂けたものと思います。

…という様々な論議が進行している中で、ドラクエを運営するスクエニは新たな声明を出しておりまして、ダイス賭博に対して「常識的なやり取りであればゲームシステムを利用したゲームプレイのひとつ」との見解と共に、そこから起こりうる様々なトラブルに対してシステム管理者として積極的に介入する意思を示したわけであります。さすがはプレイヤー側に常に身を置くゲーム会社の代表と言うべきでしょうが、法的には「善意の第三者」から「行為の幇助者」への転身のニュアンスが明確に出てきており、この論議は新たなステージを迎えたといっても良い状況です。

「ダイス機能」に関するご案内(2012/08/30)
http://hiroba.dqx.jp/sc/topics/detail/c524fb63de328c9352f38607cefe1128d43bd616/

木曽 崇
国際カジノ研究所 所長